表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十四章 翡翠の残響
295/374

■月星暦一五八六年二月⑱〈兄と姉〉

 神殿の情報網と行動力はこの街でも優秀だった。

 半日も経たずに、アトラスの元に『サラ』発見の報告がもたらされた。


 宿屋の玄関迄出迎えたアトラスに、到着した馬車から降りたイディールは憤然とした顔を見せた。


「どういうつもり?ずいぶんと派手な出迎えをしてくれて」


 家族にどう説明しろというのだと、イディールは不満を口にする。


「すまないね、呼び立てて。後で菓子折りを持ってお詫びに伺うよ」

「やめとくれ。余計大騒ぎだ」


 イディールは深々とため息を吐いた。

 

「それで、何の用?」

「ある人物の説得を頼みたい。あんたのほかにできる人間が思い浮かばなかった」

「孫まで呼んだのは?」

「若い頃のあんたにそっくりだからだよ。今のあんたじゃ、自分の身の証を立てられんだろう?」

「……地味に失礼」

「はは、ごめん」


 イディールの横で孫のフィリアは豪華な作りの宿に萎縮しているようだった。

 イディールの外套をぎゅっと握っている。


「一昨日の人……」

「フィリアだったね。君まで巻き込んじゃって悪かったね」


 フィリアに微笑みかけると、イディールに睨まれた。

 又姪を口説くな!という顔に誤解だと首を振る。


「で、誰なんだい?説得して欲しいというのは」


「アイン・マール、七十三歳。知っているか?」

「知っているも何も、アタシの従者だった男さ。生きてたのかい?」


 従者と聞けば、イディールに固執した呟きも納得した。


「終戦五十周年の記念式典のこの時機(タイミング)で、前王アウルムを殺害しようと企てた」


「はぁ〜」


 イディールは特大の溜息を落とした。


「判った。案内して」

「こっちだ」


 アトラスはイディール達を先ずは『二一五号室』に案内した。


   ※


 アトラスがイディールを連れて入った部屋では、二人の人物が向かい合ってお茶を飲んでいた。

 一人は二十歳位の乳黄色の髪の女性。もう一人はイディールと同年代の男性。

 サクヤとアウルムである。

 振り向いたアウルムの顔を見て、イディールが固まった。


「ちょっと!いるならいるって、言いなさい」


 イディールの口調が元に戻っている。


 アトラスは苦笑いで、アウルムの近くに二人を連れて行った。

 イディールとフィリアを見たアウルムは、納得した顔で立ち上がった。


「想像はつくが、その御婦人を紹介してくれるかな?アトラス」


「こちらはサラ・ファイファー。姉だったかもしれない人」


「サラ、知っていると思うけど、アウルムーー兄だ」


 二人が呆れた顔でアトラスを見た。


「ひどい紹介だな」

「ひどい紹介ね」


 見事に兄と実姉の声が重なった。


「アウルム・ロア・ボレアデス・アンブルだ」


 アウルムが手を差し出し、イディールは外の彫像の様に、その手をしっかり握り返した。


「サラ・ファイファー。今は夫の姓ハルスを名乗っています。……その昔はイディール・ジェイド・ボレアデスという名で生きていました」


「弟が世話になったようだな」

「弟が世話になったみたいですね」


 また、見事に重なった。

 アトラスは腹を抱えて笑う。



 横で孫のフィリアがぽかんとした顔で三人を見比べていた。

お読みいただきありがとうございます

気軽にコメントやアクションなど頂けたら嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ