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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十四章 翡翠の残響
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□月星暦一五八五年二月⑧〈温泉 後〉

□サクヤ


 ヨーグルト飲料ドリンクを飲み干して、サクヤは大きく息を吐いた。


「いっそのこと、『私、レイナなんだから見て!』って言い切れたら楽なのにって思うわ……」


 ずっと、溜まっていたものが不意に口をついた。


 事情を知ってて、近すぎない距離感の相手の方が話しやすいこともある。


 モネが塩とシロップが入った檸檬水を二人分追加した。


「サクヤさん、もっと水分摂りましょう」

「ありがとう」


 受け取った飲料水は身体に沁みた。


「わたしがアトラスのこと大好きだってことは、伝わってる筈なんだけどねぇ。気づいてないふり、してるようにしか見えないの」


 アトラスが居としている離島の館に招き入れてもらって約半年が経つ。

 何不自由なく与えられ、学ばせてくれる環境。文句の付け所は無いが、アトラスの意図がサクヤには測りかねていた。


「あの人も中途半端なのよ。変に優しくて、妙なところで突き放すんだから」


 つい、愚痴も溢れてしまった。


 この飲料に酒類アルコールは入っていなかったはずだが口が回る。


 モネが話を聞き出すのが上手いのだろう。時々相槌を打ちながら、気持ちよく話させてくれる。


「確かに、その微妙な距離感は苛々しちゃいますね」


「でしょう?今日だって調べ事なら私だって手伝うのに。今回も何かがありそうだからってマイヤに言われて来たこと、わたしだって解ってるっていうのに、いつもそうなのよ」


 時々、サクヤは考えてしまう。


 アトラスはシモン()の代わりに、良い嫁ぎ先を探しているのではないかと。だから、《《なにも》》してこないのではないのかと。

 色々とさせてくれるのは、実は花嫁修業なのでは無いかと。 

 サクヤは神経質ナーバスに勘繰ってしまう。


 それを口にすると、

「さすがに、考え過ぎですよ」

 モネは苦笑で応えた。


「大伯父さまは自制的ストイックで有名だったんですよ。レイナさまを亡くされてから、後釜を狙おうとした女性がどれだと思います?」

「あっ……」


 サクヤは言われるまで思い至らなかったが当然だ。

 求婚者がいなかった筈が無いのだ。


 独り身になった時の実年齢はまだ四十歳。

 若々しい見た目も然ることながら、アトラスはタビスで王子で、王位継承者である。


 月星に姿を現さなかった十年はともかく、再び姿を現しても歳をとっていないとくれば、その後も年代問わず縁談は持ち込まれただろう。


「その大伯父アトラスさまが、人目をはばからずにサクヤさんを連れているのです。その事実だけでも、サクヤさんは自信を持って良いんです」


 煮え切らないアトラスとの距離感にばかり気を取られていたサクヤだったが、モネの言葉にきちんとアトラスの『連れ』と扱われている意味を思い知る。


「わたし、もしかして護られてる?」

「大伯父さまは、しっかり態度で示されていますからね」


 モネは意味深に微笑んだ。


 言われてみれば、サクヤが『連れ』と扱われるようになったのは、前年度の月の大祭以降である。


 行事の性質上、月の大祭でのアトラスはタビスとしての色合いが濃くなる。

 そ《・》の《・》アトラスが、サクヤを同伴してアウルムとレクスとマイヤと談笑した。


 即ち、サクヤがアトラスの『連れ』だと現王に承認され、兄も了承し、娘にも認知されていることを『示した』ということだ。


 それを見た月星の人間は勝手に理解する。『女神も認めた決定事項』なのだと。


 アトラスがレイナを認めさせたのと同じ理屈である。


「ありがとう。元気出ました」


 サクヤが礼を述べると、モネは満足そうに笑みを浮かべた。


「ならよかったです!次は蒸気風呂で整えて、その後マッサージを受けて、ツヤツヤになって、大伯父さまを驚かせちゃいましょう」


 空の容器を片付けたモネは、やる気満々という顔でサクヤを促した。

【小噺】

 テメルの西には禁域『白の砂漠』が横たわっています。

白の成分は石灰質。

石灰が含まれる温泉ということで炭酸水素塩泉をイメージしました。

塩湖もあることですし、月星には海が隆起した土地の層かあるのでしょう。世界的にはカッパドキアが有名ですね。日本にもあります。


白の砂漠も入れたら凄い資源になるんですけどね 笑


十二章でレクスさんがわざわざサクヤを見にきちゃう訳です。それだけの珍事でした 笑。


お読みいただきありがとうございます

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