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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
間章
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間章●月星暦一五四一年八月〜一五四二年一月



 竜護星に新しい王が立って半年が経とうとしていた。


 レオニスが壊した王家の信用もどうにか取り戻し、竜護星は本来の姿に還ったかに見える。


 若い女王(レイナ)は馴れない職務でありながら、実際よくやっていると言えた。


 自分には向かないなどと言いながらも、『《《お飾り》》』にとどまらず、王として自分の出来ることを積極的に探す。

 何が最善かを考え、納得のいかない問題もうやむやにはしない。


 勿論、何でも自分の手で解決しようとするのではない。

 任せるところは任せながらも、進行状況、結果はきちんと聞くし、不明な点は責任者に説明を求めることをする。


 何かを決めるにしても年長者や周りの意見を求めることも忘れず、話し合いで良いと思われる答えを探し出す方法をとっていた。


 教師の教え方が良かったといえよう。


 教師の役を担った人物は二人いた。

 長年王家を支えてきた一族、ブライト家の長であり、宰相として竜護星を知り尽くしているモ―スと、五年にわたる旅の間少女の保護者代わりを努めたアトラスである。


 アトラスは正式にモースに《《雇用》》された。

 モースの補佐官ということになったが、実質は《《雑用係》》である。


 教師として少女に統治者としての信条を語る一方で、モ―スに意見を求めながらであるが人選まで手がけた。



 通常国が傾く主な理由は財政危機であることが多いが、レオニスは税を上げ徴収することに力を入れても、使うことには全くと言っていい程、興味が無かった。

 その為国庫にはたんまり貯えがあり、この先数年は、近年の増税相当分を減税しても賄えよう。


 早々に首都機能をファタ

ルに移しておいたのも功をなした。

 首都アセラ以外は通常通り機能していたのは大きい。



 レオニスが王を名乗っていた間、多くの国民は息を潜め、目立たないことを貫いた為、《《暴動が殆ど起きなかった》》。


 モースが上手く手回しをした結果だったのか、そういう国民性だったのかは不明だが、奇跡に近い。

 つまり、荒廃した設備にかかる費用も不要だった。


 必要なのは人材だった。


 レイナが王位に就いた当時、竜護星は決定的に人手不足の状態にあった。


 前王セルヴァの主立った家臣は、ほとんどレオニスによって処されてしまっており、ハイネのように牢に閉じこめられていたのは少数といえた。


 勿論、命をながらえた者はいた。

 郊外の自分の領地に逃げこんでいたか、竜護星を見限って近くの国へ亡命したかである。


 新たな時代の到来に、我先にと馳せ参じた者もいる。

 新しい王に取り入るべく、田舎から出てきた人間も少なくない。

 王宮から無理を言って宮仕えを頼んだ場合もあった。


 いずれにしても、偽りのない忠誠を誓う者、有能な人材を見極め、過去の実績より適材を見つけだして、空いた役職に添える作業は、労力を要した。


 人を見る目がなければ出来ない仕事である。


 この役目にアトラスを推薦したのはモ―スだった。

 当初アトラスは頑なに辞退したが、レオニスを一目で『悪』と判断した洞察力をほめ、彼ならば私情を挟むことなく人事が行えるとモ―スが押し切った。


 勿論、アトラスが関わることに反対した者も当然いた。

 古くから王家に仕えてきた忠臣で、その多くはレオニスに従わずに閉じこめられていた貴族である。


 ――いくら、王女を連れてきた人物で、この国をレオニスから解放するきっかけを作ったとはいえ、素性の分からぬ者を関わらせるのは相応しくない。ましてや、城内に住まわせるのは言語道断である。褒美としてこの国の滞在を許可するとしても、せめて、城郭内のどこかの屋敷をあてがうべきであり、立場はあくまでも客人なのだから、国家事情に深く立ち入らせるのはどうかと思う……というのが彼らの言い分であった。


 道理ではある。

 だが、この点は女王が押し切った。


 ――自分のことすら分からない小娘に五年もの間つきあい、支えとなりながら、無事に故郷に連れてきてくれた青年の好意。傷を負わせたという竜護星側の不名誉な事実も無かったことにしてくれた寛大な心に感謝の気持ちを忘れてはならない。


 ――あれだけの重傷であったにもかかわらず、周囲に気づかせまいと顔色一つ変えずに国葬や戴冠式に臨んでくれた姿に、自分は感動さえ覚えた。


 ――また、いかなる謝礼も拒否する青年に、せめてもの気持ちの表れとして城内に部屋を設けることが、なぜ悪いのか。更に、彼は崩れかけた国の建て直しに協力を申し出てくれた。自分は、恩義のある人間に薄情であるつもりも、人の好意をないがしろにするつもりもない。だから、この申し出を有り難く受ける……というわけである。


 この言葉にアトラスは、それだけ屁理屈が言えれば、充分王としてやっていけると、笑った。


 誉め言葉である。


 この人事に、エブルは医官に返り咲き、ペルラは女官頭になった。


 モースと共に五年間を耐え忍び、城でも古株だった女官頭の女性が暇を申し出た(辞職を望んだ)為、ペルラは半ば強引にその座を勝ち取った。


 反対意見は当然あったが、やらせてみると、頭が切れ、采配も的確で目が行き届いている為、やがて誰も何も言わなくなった。


 ハイネは軍部に放り込まれた。


 軟禁されていた五年間、モースによって知識だけはは片っ端から詰めこめられているが、壊滅的に体力が無い。


 軍部とはいっても、率いていたのは医官であるエブルだった上、寄せ集めの兵士達は技量も足らない。

 近衛隊として再編成をし、訓練メニューを考える羽目になったのも結局アトラスだった。


 月星は、剣術の水準が高いと有名な国である。

 例に漏れず月星人のアトラスは高い技術を持ち合わせており、ハイネを初め、兵士達に稽古をつけながら、ついでに実践形式の訓練まで仕込んでいく。



 この半年、誰よりも多忙だったのは、実はアトラスだったかもしれない。


 すべきことを簡潔にまとめ、順序立てて、適切に指示していったその手際の良さ。

 アトラスの鮮やかな手腕は、さすがに只人ではないと知らしめる結果となり、素性を訝しむには十分だった。



 何度となく問われる。

 アトラスは《《何者》》なのか。


 それを一番知りたかったは、他でもない女王となったレイナだったろう。


 だが、レイナは自分から尋ねることを決してしなかった。


 必要なことならば、アトラスは自分から話すはずだとレイナは知っている。


 何も言わないのは、知る必要がないか、知る時期でない。


 そうレイナは判断していた。

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