表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
第十三章名無しの王女
262/374

□月星暦一五四二年十一月③〈決別〉

 夜勤の当番以外は寝静まった真夜中。

 イディールが執務室に行くと、レイナーが一人で待っていた。


 執務室に入ったのは初めてだった。

 問題の花瓶を見て、「これは毒々しいわ」と思わず口をついた。


 邪魔と言いたくなるのも分かる程大きい。

 まともに花を生けたら百本でも埋まらなそうだ。人一人なら、中に入れるのではないだろうか。


「サラ……イディール、ごめんね」


 レイナが申し訳なさそうな顔で見上げてきた。


「この国はあなたにとって、いい国じゃなかったね。結局追い出すハメになってごめんなさい」


「いつか出て行くつもりだったから、それは構わないの。ちょっと早まっただけよ」


 本心だった。侍女も女官も手段であって、目的では無い。


「ユークのお屋敷の募集に応えたのだって、きっかけにすぎなかったもの。神殿を出られるならば何でも良かったの。それこそ、そこで(神官になって)終わるつもりなんてなかったから」


 ユークの領主邸で、愚かさを識った勉強代に喪ったものは小さくはなかったが、こうして真実を知る道筋に繋がることにはなった。


 ライネス()の死の真相を当事者に聞けたのは大きい。

 ひとつ。否、ふたつか。気持ちに整理がついた。

 これできっちり過去の自分と決別できる気がした。


「レイナ。あなたと食べた蜂蜜のパイは美味しかった。あの時月星のことを聞かれて、私は城と神殿しか知らないことに気づかされた」


 あの日の出来事は色々な意味で新鮮だった。

 

「あなたが話してくれた、異国の国の話は面白かった。神殿は生きる術は教えてくれたけど、そういうことは教えてくれなかったから」

 

 本当にあるのならいつか自分の目で見てみたいとあの時思った。


「私はね。絶対幸せになるんだ。そう、心に決めてるの」

「うん、応援してる」

 レイナが抱擁ハグして来た。イディールもしっかり抱き返す。


 視線が交わった。


「じゃあ行くよ」

「ええ!」


「せぇーの!」とかけ声を出して二人で花瓶を押した。

 初めはなかなか動かなかったが、ゆっくり傾くと『かっしゃーん』と大きな音を立てて粉々に割れた。


「やっちゃった……」

「やっちゃったわね……」


 顔を見合わせ、思わず笑い声が漏れた。

 何かが吹っ切れた気がした。


 音を聞きつけ、最初に駆けつけたのはペルラだった。屋敷には戻っていなかったらしい。


 笑いながら座り込む二人の姿を見て何かを察したのか、盛大にため息をついていた。


■月星暦一五四二年十一月⑩〈うまくやれ〉直後のエピソードです

人物紹介

https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2321437/noveldataid/25083668/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ