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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
第十三章名無しの王女
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□月星暦一五三六年二月①〈逃亡〉

五章「新人女官」登場のイディール視点でお届けします。

なぜ今になってイディール?と思われましょう。

次の章が終戦五十周年記念式典。

舞台がジェダイトだからです。

イディールの凄絶半生、暫しお付き合い下さい。

挿絵(By みてみん)

□イディール

ーーーーーーーーーーーーーー

「姫さま、大変です!」


 駆け込んできたサラの砂色の髪はかき乱れていた。

 息を整えながら、サラはイディールの肩をがしっとつかむ。


「陛下が、ライネス陛下がお亡くなりになりました」


 サラの怖いくらいに真剣な表情に、本当のことを言っているのだとイディールは理解した。


「お父様が、どうして!?」

「戦場で一騎打ちを挑まれて、討たれたそうです」

「そんな、まさか!?相手は誰?お父様を降す(くだす)程の強者があちら(アンブル派)にいるとは思えない!!」

「あいつですよ。『戦場の黒い悪夢』……」

「タビス……」


 今代のタビスはアンブル派の王子だった。

 名前はアトラス。


 『タビスが終戦の鍵』という予言があった為に、常に最前線に投入され、子供とは思えない冷酷さで淡々と剣を振るうさまから、ジェイド派ではそんな二つ名で呼ばれている。


「そんな……、本当にタビスが終わらせたというの?」


 力が抜けた。

 イディールはへなへなと、その場にへたり込んだ。


「姫さま。呆けている場合じゃございません。早く逃げませんと……」

「逃げる?」

「アンブルの奴らがこちらに向かっているそうです」


 荷袋と服を抱えた侍女のメランが入ってきた。

 彼女はカラスの濡羽色のような髪が美しい。


「姫さま、こちらに着替えてください」


 メランが示したのは装飾の類いの無い綿のワンピースに、羊毛の綿入れと実用一辺倒の革の外套。無骨な長靴(ブーツ)もある。


「これを……私が着るの?」

「いいからお早く!」


 メランに着ていた絹のドレスは剥ぎとられ、示された衣服に着替えさせられた。


「ちくちくするわ」


 おまけにガサガサして肌触りが悪い。


「そんなこと言ってる場合じゃありません」


 サラが貨幣や宝飾品、金目の物をかき集めて袋に入れ、押し付けてきた。


「無くさないでください。いざとなったら、これを売って食いつなぐんですからね」


 サラ・ファイファーはしっかりしている娘だった。


 イディールより三歳も歳下とは思えない程、機転も利き、ずばずばとイディールに意見をしてくる得難い友人でもある。


 サラも着ていた服を脱ぎ、今しがたイディールが着ていたドレスに袖を通した。

 年の割に身体が大きいので、イディールのサイズでも違和感はあまりない。


「わたしが姫さまのふりをして時間を稼ぎますから。姫さまはお早く!」


 サラの薄青の瞳に不穏なものを感じてイディールは尋ねた。


「サラ、また会えるわよね?」


 一瞬、間があった。


「もちろんですとも!」

 サラはイディールを一度強く抱擁(ハグ)して、離した。


「ご準備できましたか?」


 入ってきたのは使用人のカルゴ。

 イディールの専属従者のアイン・マールは間の悪いことに里帰り中で留守だった。


「カルゴ、姫さまを頼みます」

「お任せください」


 サラとカルゴの視線が刹那強く絡み合う。


「サラ!」

「姫さま、こちらです!」


 メランに手を引かれ、引きずられるようにして、イディールは部屋を後にした。


 振り返って見たサラの口が「さよなら」と動くのが見えた気がした。


メラン:黒

カルゴ:職務

アインマール:いつか

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