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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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□月星暦一五八五年七月⑤〈予防〉

□シモン

「私はアトラス・ウル・ボレアデスと名乗りませんでしたかな?」


 名前を聞いて本人を目の前にしても、その歴史的有名人と目の前の人物が一致しなかったのは無理もない。


 前王レイナが身罷り、その伴侶の名が、竜護星の歴史の表舞台から聞かれなくなって久しい。


 まさか、当時のままの姿で存命しているなど、信じられなかろう。


 だが、ここまできてやっとコルボーも思い立ったらしい。


「ア……トラス?アトラス王子だと?!」


「おや、ずいぶんと懐かしい呼び方をしてくれる」


 何かが壊れた。

 激昂するコルボー。

 見開いた瞳は狂気に染まったかの様。

 コルボーは立ち上がり、アトラスの真っ向に歩み寄った。


 身長差は、頭一つ分。

 見上げる形になってもコルボーは怯まない。


「許さん、許さんぞ。十年もかけたんだ。儂の夢を、こんなところで……」


「何が夢なものか。『レイナ』を悪用するのを、『私』が許すわけなかろう」


 飛びかかろうとするコルボーをアトラスは余裕で交わし、すれ違いざま、白い剣の柄に手をかけた。


 一閃。


 僅かに半透明の刀身に青白い光が疾走(はし)ったように見えた。


「過ぎた欲は取り憑かれるぞ」


 カチンと剣が収められる音に、コルボーは呆けた様に座り込んだ。


 シモンには何が起こったのか、分からない。


「何が起きたんだ?」

「邪を祓ったのよ」


 サクヤが硬い声で補足した。


「幼子に聞かせる御伽話にあるでしょ?弱い心には魔が憑くと。祓うにはユリウスの持つ一振りの剣。ーーアトラスが使ったのがそれよ。コルボーさんは自我があったし、まだ、『魔物』に憑かれた訳ではなかったから、アトラスは予防したのだと思うわ」


 こんな時のサクヤは、シモンも知らない、別人のような顔つきをする。


「いえ、憑かれかけてはいたのかしら?癇癪持ちの子どもみたいな怒り方をしていたし……」


 サクヤは何やらぶつぶつ言っているが、シモンにはよく解らない。


「それで、コルボーさんは?」

「問題ない」


 今度はアトラスが答えた。


「この剣では、人は斬れない」


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