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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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■月星暦一五八五年七月③〈金勘定〉

 居住まいを正して、アトラスはコルボーに向き合った。


「コルボー殿、この先は商人らしくお金で解決しませんか」


 コルボーの右眉がピクリと跳ね上がった。


「そうですね。あなたがフェルター殿に貸した分を、一括で私が立て替える。それで手を打ってくれませんかね」


 シモンの顔が蒼くなった。

 フェルター家に今それを請求されても払えないが、なかなかどうして大した額になる。


「アトラス様……」

「私も、何も無償で二国に仕えたわけじゃ無いんでね」


 アトラスは心配するなとシモンに頷いてみせた。



 アトラスにも彼自身の資産がある。


 特殊な身の上の為、国籍は月星のままアトラスは竜護星の王配となった。


 この国では国籍のない者は土地を出来ないという法がある。本来王配が一代限りの領主として所有する筈の直轄地から得られる収入は、代替案として『給料』という形に換算して得ていた次第だ。


 本来なら、辺境とはいえ国内の領地の事例なので王に要請するべきだが、認可が下りるまでに時間がかかる。


 アトラスは示談で済ませる為に敢えてそういう手段を提案した。


 こういった手合いは後から難癖つけてくる場合が多い。一度でけりをつける必要がある。


 だが、コルボーは不服そうに鼻を鳴らす。


「貸した金を投資に使った場合の利益分が足りん!」


 サクヤがため息をついた。


「あなたは、土地の収益を独占していたわ。既に十分すぎると思いますが?」

「小娘は黙っておれっ。それは利子分位にしかならんわっ」


 ぎろりと睨まれ、サクヤは不機嫌に顔を背けた。

 仮にも妻にと求める女性への態度ではない。


「コルボー殿、その位にしておきなさい」


 諭すようにアトラスは言う。


 ここで引けと、言外に訴えていた。


「何をだ!儂は納得しておらんぞ?」


 コルボーには伝わらなかったらしい。金切り声で喚き立てる。

 まるで、子供の癇癪の様。


 アトラスは失笑をこらえた。本当に商人なのかと疑わしくなるほど、駆け引きに気づいていない。


「解らんか?あんたの行為を『罪』とは言わないでおいてやると言っているんだ」


 がらりとアトラスの口調が変わった。


 コルボーがフェルター家に行った行為は、詐欺に横領、恫喝にあたる。


 そして、殺人疑惑。



 シモンがごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。


 これ見よがしにアトラスは、ライ・ド・ネルトが揃えてきた資料を取り出した。


 垣間見せた胡乱な空気は、既に綺麗に消している。


「コルボー殿、そこのサクヤと結婚できれば、四人目の妻だそうですな」

「それがなにか?」

「最初の妻アン、中毒死。二番目の妻ドゥーエ、三番目の妻トリアは共に病死。つくづく縁が無いとみえる」

「二人とも、身体の弱い女だったんだ」

「そうですか?」

「何が言いたい?」

「ドゥーエもトリアも、野山を駆け回るような元気な女性だったのが急に体調を崩したと、言質がとれているんですがね」

「……」


 口を開きかけて、押し黙るコルボー。


 アトラスはさして興味が無いような態度で資料を捲った。


「あなたは商人だ。我々が手に入れられない物も入手できるんじゃないかとね、つい、考えてしまうんですよ」


お読みいただきありがとうございます

アン:1

ドゥーエ:2

トリア:3

コルボーの罪、シモンの手紙の隠蔽もありますが話題に上がってないので取り上げていません。多分シモンは気づいてません。

アトラスの給料は、レイナ死後は二国で折半で支払われています

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