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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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■月星暦一五八五年七月①〈期日〉

ここから解決編?です。

 約束の一月(ひとつき)を目前に、フェルンの領主邸に到着するとシモンを押しのけて、一人の小柄な男が転がるように飛び出してきた。


「儂の花嫁を連れ出したのは貴様か!」


 年の頃は五十代半ばか。禿げ上がった黒い髪をなでつけ、小さな顎髭を蓄えている。

 目尻の下がった目やふくよかな顔は、商売用の笑みで相手を油断させるには有効なのかも知れない。


 鞠のようにまるい身体全身で毛を逆立てた猫の様に怒気を表わしていたが、怒りの形相が愛嬌のある顔の造形とそぐわず、どこか滑稽さをアトラスは感じてしまった。


 フェルター家が窮地に陥っている元凶たるグリース・コルボーであることは、紹介されずとも判った。


 ライ・ド・ネルトの話を聞いた感じではもう少し狡猾そうな印象を持っていた。

 中身と外面の(ギャップ)が激しいタイプのようだ。


 サクヤが毛嫌いする理由は、なんとなく察せられる。


「花嫁って、私は承諾した覚えは無いわ」


 噛みつかんばかりに過剰反応するサクヤを制して、アトラスが前に出た。


「グリース・コルボー殿ですね。私はアトラス・ウル・ボレアデスと申します。フェルター殿に依頼を受けて調査をしていました」


 アトラスがわざわざ下手したてに出て、フルネームを名乗る意味がコルボーには分からなかったらしい。


「お前みたいな若造が、何を調べると言うんだ」


 叫ぶコルボー。

 シモンの顔が蒼くなる。


「コルボーさん、この方は……」

「シモン、お前も何を調べさせたというんだ。不明な点は全部儂に聞けばよいものを……」


 一人でまくしたてるコルボー。口を挟む隙を与えず、話が一向に進まない。


 サクヤがすぅっと息を吸い、歩み出た。


「話を聞きなさい、グリース・コルボー!」


「なっ……」

 サクヤの一喝に、分かりやすく、コルボーの顔が歪んだ。

 シモンの顔色はほとんど真っ白になっている。


「この方は、女王陛下の命を受けて来られました。その業務を妨害をするおつもりですか?」


 アトラスは顔を背けてくすりと笑った。


 この件は場合によってはアトラスの裁量で収める許可を得てきただけだが、まあ、嘘ではない。


「皆さん、お茶が入りました。室内へどうぞ」


 凍りついた玄関先に、フェルター夫人(アミタ)が出てきて声をかけてきた。

 口調は柔らかいが、有無を言わせないものがある。


 玄関先でいつまでも騒いでいるなということらしい。


お読みいただきありがとうございます

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