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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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閑話▶月星暦一五八五年六月〈見定め〉

〈類似〉直後のお話です

〈類似〉直後のお話です

□ハイネ

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「おい、アトラス!おいってば!」


 頬をペシペシ叩いても、肩を揺さぶっても反応が無い。


「駄目です。完っ全に眠っています」

「まあ、これだけ飲めばなぁ……」


 アウルムの呆れた視線の先には空になった酒瓶の山があった。


「これほどの量、よく飲めますよね」

「やはり、身体が若いのだろう」


 アウルムはそう言って、アトラスの顔にかかる髪を除けた。

 眦に残るのは微かな涙の跡。目の下には少し隈が浮いている。


 あまり、寝られていなかったことが伺えた。


「また、色々考えすぎていたのだろう」

 

 ユリウスが寄越した、レイナの記憶を持つ女性、サクヤ。

 彼女の仕草に、表情に、眼差しにハイネですら目を奪われた。


 アトラスが平静でいられたわけがない。


「それにしても、この弟はどうしてこうも色々と引き当てるのか」 


 若いままの身体は傍から見れば羨ましくもあるが、こうも翻弄されっぱなしであるのを知った上だと気の毒としか言いようが無い。


 女神の刻印に捻じ曲げられた少年時代から始まり、ヒトとしての時間すら喪って、今度は亡くした最愛の者の記憶を持つ女性の出現と、その全てにユリウスが関わっている。


「先程の話、お前はどう思った?」

「だったらいいなと思います。アトラスの為にも」

「そうだな。アトラスは、諦めて枯れてしまうには、まだ早い」


 ユリウスが『タビス』という存在を転生させ続けているという説を、アトラスが二人に語ったことがあった。

 ならば、レイナもと思ってしまうのは短絡的だろうか。



 アウルムが使用人を呼んだ。


「客間に運んで寝かせてやってくれ」

「僕も手伝います。アウルム様、このまま失礼しますね」

「ああ。おやすみ」


   ※


 アウルムの離宮を辞したハイネは、城門に向かう小路に知った後ろ姿を見つけて声をかけた。


「アリアンナ!」

「あら、あなた。お早いですわね」

「アトラスが酔いつぶれたから解散になった」

「お兄様が?珍しいですね」


 アリアンナの隣を歩くサクヤが、気まずそうに目を伏せた。 

 アトラスが酔いつぶれる程に飲むに至った理由に心当たりがあるという顔。


「サクヤ、そういうわけだからアトラスはアウルム様の離宮に泊まる。神殿の方に言っておいてくれるかな?」

「分かりました」


 城門を出て神殿の前で足を止めると、サクヤは丁寧にお辞儀をした。


「お二人とも、楽しいお時間をありがとうございました。アリアンナさま、ではまた明日」


 神殿に向かう背中に、ハイネは声をかけた。


「レイナ!」


 サクヤはびくりと肩を震わせて、立ち止まった。

 アリアンナがぎょっとした顔をする。


「レイナなんだろう?」


 振り向いたサクヤは困ったようにはにかんでいた。


 その表情を、ハイネは知っていた。


「久しぶりね、ハイネ。また会えて嬉しいよ」


「まぁ……」

 アリアンナが息を飲んだ。


「なんてね。私にも自分が誰なのかなんて、よく分からない……」


 二人の視線を振り切るように、サクヤは背を向けた。


「おやすみなさい」


 足早に神殿に入っていくサクヤを見送りながら、アリアンナが納得という顔をした。


「そういうことですか……」

「アトラスは認められないみたいだけどね」

「お兄様らしいですね」

「ホントに。でも彼は、サクヤを僕らに見定めて欲しかったんだと思う」


 アリアンナがハイネを見る顔に苦笑が混じった。


「あなたには、もう答えが出ている様に見えますわ」


「だって、またレイナに会えたんだ。こんな嬉しい奇跡、そうそうあるもんじゃないだろう?」


 そう断言するハイネに、アリアンナは眩しそうな微笑みを向けてきた。


「あなたらしいですわ」



閑話 完

 

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