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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
224/374

□月星暦一五八五年六月⑮〈レイナ〉

□マイヤ

□マイヤ

ーーーーーーーーーーーーーー

 少し悪戯っぽい微笑。気を使わせまいと吐いた下手くそな嘘。サクヤが浮かべたその表情をマイヤは知っている。


 今度こそ、マイヤが呆気にとられた。


「……サクヤさん。あなたは、ご自分が(レイナ)の生まれ変わりだと主張したいのではありませんの?」

「そう、信じていたこともあります」


 サクヤは語る。


「実際にレイナの見た景色、彼女が生きた場所に来てみて、分からなくなりました」


 ふぅと、サクヤは息を吐いた。


「懐かしいと感じたわ。知っている景色に感慨深いものがある。でも、竜の背で感じた潮風もこの地のむせかえるような緑の匂いも、この城の重厚感も()()()の感覚です。……私は、この空気を()()()()()

()()()()()


 後ろ半分は嘘である。マイヤが嗜めるとサクヤはきまり悪そうな顔をした。


「陛下相手に嘘は無駄でしたね」

 

 そう口にして、サクヤ不思議そうに「何故そう思ったのかしら?」呟いた。


 サクヤの知るレイナにとって、マイヤはまだ巫覡ではない。マイヤが巫覡であることをサクヤは風の噂では知っていても、()()()巫覡なのかまでは把握していない。


 マイヤは、興味深く頷いた。

「では、あなたは母を、『レイナ』をどうお思いになりますか」


「莫迦な女……」


 サクヤは低い声で呟くように答え、ハッと顔をあげる。


「ごめんなさい。お母様のことを……」

「良いのです。続けて」

「……」


 続けてと言われてすんなり続けられるものでないとサクヤ。  

 だが、マイヤの逃すまいと言う視線に、ため息をつきながらサクヤは口を開いた。


「……レイナは元来、好奇心旺盛で奔放で自分の心に正直な人でした。心の赴くままに城を抜け出して一人月星に行ってしまうような。お互い何者でも無い者として、アトラスと旅をした五年間は夢のような時間だった。そんな宝物だった時間なのに、自分がそうであった為に国が民が苦しんだと、いつしか罪悪感にすり替えてしまった」


 レイナが不在の五年の間に、次兄が狂った(魔物に憑かれた)。母王と王位継承者の長兄を弑逆し、暴君として君臨。国は傾いた。


あの次兄(ケイネス)が道を誤ったのはレイナの所為では無いのに、兄の心が弱かっただけのことなのに、彼女は自分の所為だとはきちがえてしまった」


「あなたはレイナは幸せではなかったとおっしゃる?」


「幸せだったわ。腹が立つ位に幸せだった。でも、幸せ過ぎることにも罪悪感を持った莫迦な女。兄の過ちを償おうという志しは立派だったかも知れないけど、それで自分を押し殺して、向かない王様業を頑張りすぎて、寿命を縮めるような……」


 その口調はどこか自虐的にも聞こえた。


「失ったからこそ、いえ、違うわね。手にしていない私だからこそ分かることもあるということよ。自分がどんなに幸せだったのか、見失っていたの。アトラスにさえ、罪悪感を持つような」


 サクヤの言い分は、単にレイナとの意見の相違を示すのではなく、愚かな過去を諫めるようだった。


 苦笑しながらも、マイヤは頷く。


「母の……レイナの記憶を持つというのは、本当のようですね……」


 サクヤの感情は別として、その言動には普通では知り得ない情報が含まれていた。


 少女の時分にレイナが月星に『自ら』行ったということを知る者は限定される。


 公には当時の王セルヴァが事態を予見し、昔の伝手を頼って月星に逃がしたことになっている。その盟約に従って、アトラスがこの国に送り届けたというのが、一般に知られている史実だ。


 アトラス自身も失踪中の身の上だったことは、月星との取り決めで伏せられている。


 知らなければ、『何者でも無い者』という言葉は出てこない。


お読み頂きありがとうございます。

サクヤの情報には何故か、夢で《《見ていない》》ものも混ざっているようです。

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