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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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■月星暦一五八五年六月⑬〈依頼〉

 サクヤがマイヤと『お茶会』をしている頃、アトラスはライ・ド・ネルト・ファルタンを訪ねていた。


 港町ファタルの先代領主の三男である彼は、レイナのというよりはアトラスの右腕だった。

 王がマイヤに代わってからも、補佐官としてつい最近まで王宮に勤めていた。


 一線を退いてからもファタルには戻らず、アセラの城下に居を構えて続けている。


 若い頃は漆黒だった髪も、だいぶごましお頭になっているが、引き締まった体型も黒い瞳の眼光の鋭さも変わらない。


「毎度で悪いんだが、ちょっと頼まれて欲しいことがあってな」

「果て。この老骨がお役に立てますかな」


 そんなことを言いながら、顔には含み笑いがある。


「今回は珍しく、女性連れでご帰還ということですが、その方絡みですか?」

「情報が早いな」


 アトラスが懇意にする理由はここにある。


「彼女の名はサクヤ・フェルター。フェルン領主の娘だ」

「フェルンといえば、十年程前に領主が代替わりしましたね」


 すらすらと出てくるのはさすがだ。

 アトラスですら行ってみるまで、辺境の一地域位の認識だった。


「フェルンはここ十年で急激に財政が傾いていてな」

「納税が滞っているという話は無かったと思いますが」

「コルボーという商人の金で支払われているようなものだからな」


 ライは考える顔つきになった。


「その商人がその投資で何を得ようとしているかをお知りになりたいのですか?」

「コルボーが欲しいのはサクヤだ。それは判っている。それ以前に、フェルンの財政悪化にコルボー自身が噛んでいるらしい」

「自作自演ですか?」

「まあ、そうなるな。領主は借金の形にコルボーに土地をむしり取られているんだ」

「なるほど、そういうことですか」


 ライドネルトは頷いた。


「ならばこの秋に納める分も当然足りなくなる。娘を寄越さないと、今度は貸さないという訳ですね」


 話が早くて助かる。


 だから、ひと月後の返答という訳だ。

 領主であるシモンには後が無い。


「是非とも、その領主を一から調教して差し上げたい」

「それは 必要だろうな。あの領主は先代が急逝したせいで、引き継ぎが不十分だったようだ」


 だが、今は先にしなければならないことがある。


「土地の不正使用を指摘して、清算することは出来ましょう。毎年しっかり納められていたからといって、その内情を把握していないとあらば、こちらの監督不行き届きでもあります。場合によっては、期限を遅らせることも可能かと……」

「その辺りのことは、実はあまり心配していない。とりあえずは資料さえ揃えて提示できれば良い」

「でしょうね」


 その程度のことで、わざわざライの所に来る必要は無い。

 王宮では彼が仕込んだ有能な人材が、滞りなくマイヤの治世を回している。


「調べて欲しいのはコルボーのことだ」

「なるほど」


 コルボーのことは王宮では調べられない。だがコルボーは商人である。ならば、貿易で発展してきた港町ファタルの領主、ファルタン家で調べられないことは無い。

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