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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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□月星暦一五八五年六月⑫〈初対面〉

□サクヤ


 竜護星首都アセラの城に着くなり通された居間には、紅味めいた砂色の髪を複雑に結い上げ、上品な佇まいの淑女が待ち構えていた。


「あら、まあ。久しぶりに現れたと思ったら、素敵なお客さまをお連れですのね」


 現竜護星国主マイヤ・レール・アシェレスタ。レイナの忘れ形見である。


「久しぶりという程か?二ヶ月前に来ただろう」

「わたくしもお父様のお顔が見たくて色々頼んでおりますのに、報告書を送りつけて済ますことが多いじゃありませんか」

「依頼も手紙で寄越すんだから、やってることは変わらんだろう」


 父娘の会話というよりは姉弟喧嘩のようなやり取り。実際見た目もそんな感じに見える。


「ところで、そろそろ紹介してくれませんこと?」


 マイヤはアトラスの背後に控えるサクヤを見やる。


「彼女はサクヤ。フェルンの領主の妹だ」


「サクヤ・フェルターでございます、陛下。お初にお目にかかります」


 作法に則った挨拶をしながら、サクヤは自分の言葉に引っかかりを覚えた。


(ーー初めて?)


 訝しむサクヤの表情を見留めたマイヤが物騒な笑みを浮かべる。


「お父様、わたくし、その方とお茶をしたいのですけど、構いませんね」


 有無を言わせぬ口調にアトラスは苦笑する。


「お手柔らかにな」


 サクヤを振り返って確認する。

「問題事の件は自分で言えるな?」

「はい」

「では、俺はその間に、用事を済ませてくるとしよう」


 アトラスが部屋を出て行くと、マイヤはサクヤの真正面に立った。


 値踏みするように、舐めまわすようにサクヤを観察し、マイヤは悪戯を見つけた子供の様に微笑んだ。


「よくぞ、お越し下さいましたわ」


 サクヤは笑みで返すが、若干引きつっていたのは無理も無かろう。


「あの父が人を連れてくるのは、初めてなのですよ。どうやって父を動かしたのか、わたくしとても興味がありますの」


 女王はずいと詰めてくる。


 その率直さにサクヤは圧倒された。


 陽当たりの良いテラスを望む部屋に居ながら、サクヤの背筋に何やら冷たいものが流れた。

 

  ※※※


 マイヤに促されるままサクヤは長椅子に座った。マイヤはお茶に軽食や菓子を持ってこさせると人払いをする。


 マイヤが手ずから注いでくれた、薔薇の香りのする紅茶を口に運びながら、サクヤはフェルター家が陥っている状況を説明した。


「なるほど……」


 マイヤは優雅な仕草でカップをソーサに戻しながら、サクヤを見やる。


「状況は理解しました。しかし、それだけでは父は動きません」


 海青(マリンブルー)の瞳がぐいっとサクヤを見つめた。


「領主が土地を失い、逼迫しているのはゆゆしき問題ですが、一言こちらに報告を入れだけで済む話です」

 マイヤはぴしゃりと言い切った。


「失礼ですが、女王陛下。地方の人間が他の街にどの様に手紙を送るのかご存知でしょうか?」


 サクヤは物怖じせずにマイヤをひたと見つめる。


「伝書鳩などの手段がなければ、領主の元に集められ、信頼出来る商人等に委ねられます。兄にもコルボー氏にも知られずに報告することは叶いませんでした」


 サクヤには手段が無かったということだ。



「……状況を打開したいならアトラスさま会うように私に言った方がいます」


「ユリウスですね」


 持ち前の洞察力で、マイヤはサクヤの言葉を先回りする。


「ユリウスが貴女の前に現れたのは視えていましたから、父を派遣したのです」

「だからアトラスはあそこに居たのね!」


 ぱん、と手を併せて納得と身体で表現したサクヤ。マイヤの視線を受けて、素がでてしまったことを取り繕う。


「失礼しました」

「楽になさって構いませんのよ」


 マイヤは言うが、それはなかなか難しい。


「そう言えば、陛下は巫覡でいらっしゃいましたね。セルヴァ様のようにその場面を視せられたということですね」

「え?ええ。ユリウスから送られてくるのは一方的な画なので、詳細は判らないのです」


 マイヤは一瞬怪訝な色を滲ませたが、すぐに何でもなかったように消してサクヤに尋ねた。


「ユリウスが貴女に会いに来た時のことを詳しく話してもらえませんか?」

お読みいただきありがとうございます

↓十二章人物紹介

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