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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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■月星暦一五八五年六月①〈お遣い〉

第三部十二章開始です

挿絵(By みてみん)

 月星暦一五六〇年、竜護星国主であった妻、レイナが亡くなった。アトラスは王配という重圧からは解放されたが、次のマイヤの父親であることは変わらない。

 月星王アウルムの弟であるアトラスがマイヤの後ろには居る。その事実は充分盾として機能する。辺境の小国でしかなかった竜護星も大国の庇護下にあるという認識で見られ、待遇は随分と変わった。


 アトラスは兄アウルムの息子、レクスの盾としても実質機能していた。こちらはタビスという肩書きが未だ活きている。

 かつて七十五年に渡った内戦を終結に導いた英雄であり、女神の代弁者として、希望を与える存在として認識されているタビス。

 レクスの後ろにはタビスがいる。月星に手を出せばタビスが黙っていないと、他国への牽制としてレクスの護りになっていた。


 アウルムはレクスが三十歳の年に王位を譲り渡している。月星歴一五八二年のことであった。


 二国を行き来するアトラス。その合間を縫うように、人ならざる者ーーユリウスからの指示が、巫覡たるマイヤを経由してアトラスに伝わる。魔物を廃せる唯一の剣を携えて、その『お遣い』をこなす日々。そうすることが、ユリウスに近づく手立てになると信じて幾年月。気がつけばレイナと死別して二十五年が経とうとしていた。


   ※※※


 月星暦1585年。

 アトラスの歳は六十五を数えるが、姿は肉体の最盛期ーー三十歳前後で止まったままである。ユリウスがアトラスに盟約を果たさせる為に刻を止めたらしい。

 ユリウスはこと細やかに指示を送ってくるくせに、月星歴一五七三年の接触を最後に姿を現さない。

 そんなアトラスを、何も知らない月星人は言う。女神の加護を体現しているタビスなのだと。


 人の身で歳をとらない身体は異様である。竜護星でもマイヤが擁護してくれているが、奇異に映るのは致し方ない。

 拠点にしろと、離島にある館をマイヤからあてがわれている。

 避暑や狩り目的に作った別荘のひとつか、あるいはどこぞの貴族からの徴収物なのか、謂れは聞いてはいない。

 古くこじんまりとしているが、なかなか趣のある建築物だった。

 ただ、場所がさすがに辺鄙すぎて寄り付かなくなったと思われる。

 見た目が変わらなくなって久しい身としてはありがたい立地である。

 もちろんマイヤのことだからその点も当然考慮して、選出した物件だろう。普段竜を使って移動する為、場所は気にならない。

 管理はしていたようだが、建物というのは人が使わなくなるととたんに傷む。改修し、調度品も整えられると、住み込みの使用人まで雇われた。

 月星から従者として付いてきたサンクも五十代半ば。竜護星でレイナの侍女をしていたハーラ所帯を持ち、二人の子供も育て上げてなおアトラスの従者を自称する。

 使用人達をまとめ上げ、外出しがちなアトラスの帰りを待ち、時には同行しながら館を管理してくれている。


 巫覡の指示はすっぽかすと、あとが怖い。マイヤの用件は最優先でこなすようになった。

 お陰で一つ用件が済むとこの館に戻り、サンクかハーラが預かるマイヤからの手紙を確認するというサイクルが出来上がった。

 

 今回も、マイヤの指示でフェルン島という、東の方にある離島に向かった。

 大きくも無い島で、一人の領主で足りる。

 隣国朱磐星が近く、昔は監視の意味もあったかも知れない。


『流れが変わる兆しが見えます』


 マイヤにしては曖昧な表現。

 彼女にも解っていないのかも知れない。疑問に思いながらも、日付だけは記載されていた為、前日迄に現地に入る。


 島に着いた頃には夜になっていた。

 アトラスは領主のいる街には行かず、街道を少し外れた場所で野宿をすることにした。

お読みいただきありがとうございます

▶謎の女性は二話から登場。物語が動き出します。お楽しみに!

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