◯月星暦一五八六年六月〈マイヤの独白④ 兆し〉
◯視点マイヤ一人称
アトラスはマイヤを介したユリウスのお遣いを一体何年続けたことでしょうか。
レイナが逝去して二十五年になろうという年の早秋のことです。
マイヤは竜護星の東の端、フェルン島という離島に向かうよう、アトラスに指示をしました。
フェルンは大きくも無い島で、一人の領主で足ります。フェルンの領主フェルターが、首都に来たのは、十年程前でしょうか。代替わりの報告が最後だと記憶しています。
隣国朱磐星が近く、昔は監視の意味もあったかも知れませんが、現国主はマイヤの夫のテュール・ヨウィス・デイオスです。
テュールの二人の兄や子供達が相次いで流行り病に倒れた為、想定外にお鉢が廻ってきてしまいました。
その流れでマイヤの双子の息子達ーー兄メルク・リウスと弟メギス・トリス
ーーの弟の方が次の国主になる予定の友好国です。とりあえずの心配はありません。
今回送られきたユリウスのメッセージは少し勝手が違っていました。
珍しくユリウス自身が姿を晒し、フェルンの領主邸から出てきた女性に声をかけていました。
月の光を流し込んだような乳黄色の淡い髪を持つ、美しい女性です。
マイヤは女性の勁い眼差しに既視感を覚えました。
話している内容の詳細迄は届きませんでしたが、この日この場所にならアトラスに逢えるとユリウスが伝えていることだけは判りました。
なぜだか心が躍りました。
未来がある程度判ってしまうと、驚くことが少ないのです。
早速、アトラスに連絡を入れました。
「流れが変わる兆しが見えます」
マイヤは、ただそれだけをアトラスに告げました。
第十ニ章「兆し」 完
第二部完
第三部に続く
二部年表




