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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十一章 兆し
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■月星暦一五七三年六月月⑦〈考察 後〉

 ユリウスを殺せば、止められた刻の流れは戻るのだとアトラスは言った。


「なんですって?」


 マイヤは躊躇いがちに口を開く。


「お父様。ユリウスを殺す方法があるということが、驚きなのですが……」

「手段は既に手にしている。本人から渡されている」


 何を示しているのかを察し、マイヤは息を飲む。


「あれは、魔物を退治する為の剣でしょう?ユリウスは、魔物なのですか?」

 今度はアトラスが呆気にとられた顔をした。

「なんでそうなる?」

「魔物は人に取り憑き、精神に干渉して人を操るのでしょう?そしてあの剣でしか浄化出来ない」

「ユリウスは姿を変えられるとはいえ、魔物とは違って肉の体を持っているぞ」

「肉体?幻影の類ではなく?」

「違う」


 アトラスは断言する。


「あいつも呼吸をして生きている生き物だ。皮膚の質感も人間のそれと変わらん。姿替えも幻を見せているのではなく、骨格そのものから変わっている」

「……やけに詳しく語りますね」

「た、たまたま触れる機会があっただけだ」


 アトラスはすと目を反らした。


「人の姿をしてはいるが、中身は見た目以上に頑丈で、人とは別物なのは確かだがな。俺を片腕で持ち上げて放り投げるくらいだし」

「はい?」


 先程から妙な単語がアトラスの口をつく。

 しまったという顔で、アトラスは一つ咳払いをすると、何食わぬ顔で話を戻した。


「ユリウスは聖域に入れる。そもそも、同族なら魔物退治なんぞせんだろう」

「その前提が(ブラフ)ということは?人に憑いた状態ならばあの剣は握れるのでしょう?聖域にだって入れるのではございませんか?」


 マイヤは魔物に憑かれた人間も、ユリウスも実際に会ったことは無い。

 ユリウスの恐ろしさは痛感したばかりだが、魔物のおぞましさとは全くの別物だとアトラスには言い切れる。


「そうか。字面だけ追うとそう見えるのか」


 アトラスは面白そうに呟いた。


「レイナの記憶喪失がユリウスによるものだろうと言ったから、魔物と同じ様に人に干渉すると感じたんだな。メッセージを送りつけてくる事自体が干渉だしな」


 アトラスは納得した。実際に見ていなければ、違いが分かりづらいのは当然かも知れない。


「魔物も干渉するとは言っても、緻密なことが出来るわけではないんだ」


 かつてこの城で、レオニスにあやつり人形にされた人間の一糸乱れぬ単純さは異様だった。でなければ、伸してまわり一人レオニスのもとに辿り着くなどという芸当は、アトラスと言えど出来なかったはずだ。


「干渉というなら、マイヤはユリウスのメッセージを送りつけられて、嫌な気配は感じていないのだろう?」

「それはそうなのですが……」

「その件は今度アウルムに聞いてみなさい。兄は実際に魔物に操られ、ユリウスに治癒されたという両方との経験があるのだから」


 そもそも、両者共を直接知るのはアトラスを除けばアウルムとハイネしか居ない。ハイネは実際に魔物に憑かれ、ユリウスと会話したという過去がある。


 マイヤは納得してはいない顔だったが、切り替える。


 竜護星に神の概念は無いが、ユリウスは始祖アシエラに能力を授けた恩人、竜の守護者的な扱われ方をしている人物である。あまり悪く言いたくはない心情が透けて見えた。 


「……それで、お父様はどうなさるおつもりですか?」

「探すさ。しないのなら、自分と共に長い刻を生きろみたいなことをユリウスに言われた」


 アトラスは酷く苦り切った顔で答えた。

お読みいただきありがとうございます

人物紹介

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