□月星暦一五七三年六月①〈音信不通〉
十章終話あたりに絡みます
□視点マイヤ
マイヤ一人称口調から通常運転に戻ります
アトラスと半年程音信不通状態が続くと、マイヤにしては珍しくかなり怒った。
「半年も音信不通……以前にもこんなことがありましたな」(※1)
そう言ったのはライ・ド・ネルト。
ライはアトラスの補佐官として辣腕をふるっていたが、不在の時はマイヤの為に働くよう、アトラスに言われている。
ライの実家ファルタン家は竜護星の貿易の要、港街ファタルの領主である為、竜護星王家に仕える立場にある。
異例だが、ファルタンの人間はアウルム個人と直接契約してアトラスの後ろ盾という立場にある。ファルタン家の本質は商人。対価は月星のリメール港の専用の停泊場だった。アトラスが存命中は適応される契約である。
ファルタン家は伝手が多いので、調べごとに強い。
アトラスの捜索にはライも方方に手を回して頑張ってくれたが、本人が帰還するまで接触は結局叶わなかった。
目撃情報があっても、到着した頃には既にいない。
月星側も神殿の情報網を駆使して協力してくれたが、神殿は基本アトラス、すなわちタビスの意志は女神の意志というスタンスである為、どこどこで無事を確認したという事後報告しかしてこない。
※※※
冬至も過ぎた六月ある明け方(※2)、突然その画はマイヤに捉えられた。
『風呂に入りたいな。マイヤに伝わらないかな』という、なんとも脱力する内容のアトラスの呟き。
心配していたこちらの気も知らないで、と安堵よりも怒りの方が勝ってくる。
風呂の準備をさせると、マイヤは湖側の通用門へ向かった。
程なくして、視えた装いのままのアトラスが現れる。
目が合うと、開口一番マイヤは怒鳴った。
「半年も連絡も寄越さないで、こちらからお話がしたい時もあるのです」
「すまなかったな」と謝るアトラスの声に張りが無い。
「お父様、どうしました?」
マイヤは怪訝な声を出した。
「なんだかやつれているように見えますが」
「小言は後で聞く。少し休ませてくれ」
アトラスは本当に疲れているようだった。眼の下には隈が浮かんでおり、顔色が悪い。
ここまで消耗しているアトラスは珍しい。聞きたいことは山程あったが、道を開ける。
ささやかな抵抗とばかりに、マイヤはふんと鼻を鳴らし、「お風呂の用意はしてあります」と言うと、アトラスは微かに笑ったようだった。
※
翌朝になっても、昼が近くなってもアトラスは自室からでてこなかった。
流石に心配になり、マイヤは筆頭医官のエブルを向かわせた。
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※1)2章 剣を探しに半年行方不明
※2)竜護星は南半球にあります
人物紹介
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