◯月星暦一五六〇年〜一五七三年〈マイヤの独白② 不干渉〉
◯視点マイヤ一人称
マイヤに縁談がもちあがったのは十九歳の時でした。
知らない相手ではありません。
朱磐星の三男であるテュール・ヨウィス・デイオス、二十三歳。隣国であり竜護星に程近い朱磐星は長く交流のある国であり、テュールとも幼い頃から何度となく会っていました。
友好国だった為、それ程政略色が強い婚姻でもありません。
ですが、それだけです。
そこに恋愛感情はありませんでした。
自身は大恋愛の末に結婚を決めたアトラスは、当初難色を示しました。
アトラスとレイナはマイヤの目から見ても仲睦まじい夫婦でした。例え娘でも入れない領域というものがあるのを見せつけられた程です。
アトラスはレイナを伴侶とする為に、色々と無茶をやらかしたと聞いています。
どんなものだったのか見てみたいものですが、残念ながらマイヤには未来は視えても過去は視られません。
テュールを伴侶に選んだのは義務感からではありません。ただ、共に歩む姿が視えたからそれで良いと思いました。
アトラスの妹、アリアンナ叔母様の伴侶である竜護星出身のハイネ叔父様も、息子のルネを相手にと考えていたようでしたが、彼との未来は視えなかった為、かなり早い段階で丁重にお断りしていています。
アトラスの見た目の違和感が気のせいですまない、決定的なものとして認識したのは夫となったテュールの一言でした。
「お義父上はお若いよね。僕の上の兄よりも若く見える」
三男であるテュールの上の兄はその時三十六歳。アトラスは更に八歳近く歳上でした。(※月星歴一五六三年時点)
『アトラスは齢をとっていない』
自覚したからでしょうか。
『それ』は唐突に来ました。
一方的に視せられる映像。明確な指示。
マイヤは『これ』がそうなのだと悟りました。
歴代の竜護星の巫覡達が受け取ってきたという、マイヤの『未来視』とは似て非なるもの。
マイヤの祖母セルヴァは、自身は受信者たる巫覡で、誰かが視たものを視せられているだけだと、視たいものが視られる訳ではないと言葉に残しています。
誰からのものかはセルヴァは明言しなかったーー出来なかったのかも知れませんが、マイヤには送信者が特定できました。
これはユリウスからのメッセージ。巫覡に送りつけてはいますが、伝えるべき相手はアトラスだとマイヤは理解しました。
※※※
テュールが竜護星に居を移した頃から、アトラスは月の半分は竜護星に帰って来なくなりました。
月星との二重生活となったのだと思っていました。
当初は、実際にそうだったのでしょう。少なくとも、アトラスが月の大祭に出席していた、月星歴一五六五年迄は月星に顔を出していた筈です。
月星暦一五六五年以降のある時、ユリウスからの伝言を伝えるべく、月星に連絡を入れるとそちらにもアトラスは居ないという返答が返ってきました。
月星も、アトラスは竜護星に居るものだと認識していたとのこと。
マイヤはアトラスを視ようとしましたが、やはり掴まえることはできません。
アトラスは視えにくいのです。昔からそうでした。
アトラス自身が、マイヤに伝わればいいと思っていれば視えます。
体のどこかに触れていれば視ることはできます。マイヤが視られる他の誰か(※)に関わっていれば、その者経由でなら視えることもあります。
誰も言及しませんが、干渉を受け付けないこの性質こそ『タビス』と呼ばれる者の本当の資質なのではないかと、マイヤは密かに考えています。
アトラス魔物に憑かれないといのもそれが理由だとすれば、納得できるからです。
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人物紹介
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