◯月星暦一五六〇〜一五七三年〈マイヤの独白① 不老の男〉
第二部終章である十一章「兆し」は、マイヤの独白に加えて、十章直後のアトラスとマイヤが考察することで、第一部、第二部の復習と十章の補足をし、三部に続く章となっています。
宜しくお願いします。
◯視点マイヤ一人称
画はマイヤ十六歳頃
【月星暦一五七三年】
少なく見積もっても二十五年は歳を取っていない人間が居ます。それが自分の父親ともなれば、気の所為で済ませたくもありました。
今年、マイヤは二十九歳になります。三十路を間近に控えて、実感としてアトラスの見た目の異様さを理解しています。
マイヤの海色の瞳と顔の輪郭、鼻の形や肌の色はレイナから貰ったものです。紅味がかっていますが砂色の髪と、切れ長の目は間違いなくアトラス譲り。
今、マイヤとアトラスが二人並ぶ姿を、知らない人間が見たらこう言うでしょう。
「よく似た兄妹ですね」と。
アトラスの見た目は三十歳前後にしか見えません。
【月星暦一五六〇年】
マイヤがアトラスの見た目に違和感を覚えたのはいつ頃だったでしょうか。
昔から年齢の割に若いなとは思っていました。
ですが、子供の目から見て、大人の年齢はよく分からないものです。そんなものだと思ってしまえば気になりません。ましてや相手が、同じ屋根の下で生活して、しょっちゅう顔を合わせている自分の父親ならば、尚更分からないものでしょう。
レイナが身罷ったのは|マイヤが十六歳の時でした。
その時、レイナは三十五歳。アトラスは四十歳になっていたはずですが、病み衰えたレイナと比べようなどとは誰も思いませんでした。
だからその頃は気づかなかったのです。まさか三十歳前後で齢が止まっているなど、考えもしませんでした。
※※※
マイヤには、次の王になることに恐れも戸惑いもありませんでした。
病床のレイナに代わって、アトラスと共に既に王の代行として業務の大半を担っていたから、それがどういうものなのかは理解していました。なにより、王である自分の姿が巫覡であるマイヤには視えていました。
アトラスはレイナの伴侶でしたが、竜護星に帰化した訳ではありません。
アトラスの国籍は故国月星にあり、月星の所属です。二人の婚姻は、言い方は悪いですが、レイナに伴侶として貸し出される扱いでした。
アトラスはタビスという、月星では替えの効かない唯一人の神官です。
女神の刻印をその身に持ち、女神の代弁者とされる為、月星を離れることを良しとしない者達との、それが妥協点でした。
月星王の弟であるアトラスの肩書は『王子』のままであり、月星王家のボレアデス姓を名乗ります。王位継承順位もアウルム伯父様の息子レクスに次いで二位を保持しています。
故に、本来ならレイナが亡くなった時点で、アトラスは月星に帰らねばなりませんでした。
そうはならなかったのはアウルム伯父様の一言でした。
「マイヤはまだ十代の少女だし、母親が亡くなったばかりなのだから側にいてやりなさい」と、月星王が許しました。
マイヤが王位を継承したのを機に、アトラスはかつて使っていたという迎賓棟の一室に居室を移しました。
「使い続けても別に構いませんのに」と言うと、
「いずれ訪れるマイヤの伴侶の為に、この部屋は開けておかなきゃ駄目だろう」とアトラスは笑っていましたが、レイナとの思い出が詰まる部屋に居たくなかっただけなのかも知れません。
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人物紹介
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