□月星暦1573年6月⑩〈願いと望み〉☆?
□視点ユリウス
もう、かれこれ千年以上前にのことだ。
ユリウスは最初の青年の存在を、その魂を愛おしいと思った。彼ならば望みを叶えてくれ得ると思った。だから、願いを叶える代わりにユリウスの望みをきいて欲しいと契約を交わした。
青年の願いは、今生で叶わなかった女と番う次の生だった。
ユリウスは神ではない。だが、自身の刻印を施したものならば、閉ざされた輪の中に留めておくことは出来た。
『次の生で願いを叶えたなら、約束を果たせ』それで終わるはずだった。
誤算だったのは、青年が持つ特異な性質までが次の生にも受け継がれていたことだ。
青年はけっして魔に憑かれない。霊的干渉を受け付けない。ユリウスですら、直接触れていないとどうすることも出来ない。夢も送れない。その特殊な性質の所為で前の生の記憶は持ち越さない。当然ユリウスとの約束も覚えていない。
今、姿を借りている女の方は、人間には珍しい程、鋭い感覚を持つ巫覡だった。
歴史書にはユリウスがの能力を与えたかのように記されているが、実際は予め備わっていたものを開いてやっただけだ。
その能力の一部は血を介して子孫に遺伝していったが、元来魂に根付いたものだったのだろう。時には記憶を保持している場合もあった。きっかけさえ与えてやれば、思い出す者もいた。
しかし青年は何も覚えていない。何度繰り返しても変らない性質。
それでもユリウスは青年の願いを叶え続けた。叶えさえすれば、いつしか約束は果たされる。そう信じていた。
何度も何度も繰り返すうちに、理由は曖昧になってしまっていた。なぜ、この魂に固執するのかさえ判らなくなっていった。
アトラスを呼び出して良かったと、ユリウスは結果に満足した。
多少強引な手立てになってしまったが、おかげではっきりと思い出した。同時に得た幸福感を噛みしめる。
ユリウスは、身体の奥まで満ち足りたものが広がっているのを感じていた。こんな充足感はいつ以来か判らない。
ユリウスが身体を起こすと、睨みつける青灰色の瞳があった。
「殺してやる」
食いしばる歯の奥から絞り出された言葉。
ユリウスの顔が歓喜に染まった。
「それで良い。その言葉が聞きたかった」
頑固で、うたれ強くてお人好しなアトラスからこの一言を引き出すのに、私とユリウスは悩みました。その結果がこの有り様です。
レイナか生きていれば彼女を人質に引き出せたかも知れませんがいない。アウルムやマイヤは絶対的に信頼してるので対象にならない。痛みには屈しない。
ならばと、圧倒的に力の差を見せつける手段として辿り着いたのが屈辱かな、と。なんかごめんなさい。
タビスはいわば霊的不干渉。巫覡とは対極にある者でした。女神がいるとしても、声を聞くことは出来なかった、代弁者にはなり得ないということです。
事実や通説と真実は異なる、この作品にずっと流れてる裏テーマはここにもありました。