□月星暦1573年6月⑥〈眼差し〉☆
□視点ユリウス
【□ユリウス】
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ユリウスが姿を借りている小柄で痩躯の女性は、小突くだけで簡単に吹っ飛んでしまいそうな程、華奢である。
伸し掛かるのその身体に、アトラスは床に縫い付けられたようにびくとも動けない。
見かけと中身が違うことは充分理解しているはずなのに、その事実を受け入れられないらしい。
「どけ」
「やめろ」
「触るな」
散々文句を言いながら、アトラスは頑なに身体に力を入れ、もがき、爪でシーツを引っ掻いては抜けだそうと足掻いていた。
無駄であることがなぜ解らないのか、ユリウスは怪訝に思う。
アトラスは物分かりの悪い方ではない筈なのに、何を拒んでいるのだろうか。
男の姿を嫌がったからこの姿を採っているというのに、アトラスは一体何を嫌がっているのだろうか。
ユリウスには判らない。
煩わしく思いながらも無視していたら、やがて押さえつけた身体からすっと力を抜けるのが判った。
どうやってもどうにもならないと、体力の無駄遣いでしかないことをやっと悟ったのだろう。
「好きにするがいい」
青灰色の瞳が仄暗い光を帯びる。
「どうせ、お前のおかげで生き繋いでいる身体だ」
アトラスは抵抗はやめたが拒むことを止めてはいない。
思い通りにならない状況に打ちひしがれながらも、折されない眼差しは変らない。
ーーそう。変らない。
あの男もそうだったと、ユリウスは遠い昔に想いを馳せた。
状況に打ち負けても、通した我は間違いではなかったと、去るしか選択肢がなくなっても、折れない心で先を見据えていた青年の眼差し。
その勁い瞳が好ましかった。
そうだ、「好き」だ。
その感情をユリウスは思い出した。
お読みいただきありがとうございます
何を読まされているのだと思わていそうですね。
ユリウスには必要なプロセスのようです。
次話も【閲覧注意】です