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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十章 盟約
188/374

□月星暦1673年6月④〈落胆〉☆

□視点ユリウス

【閲覧注意】

本作にはBL要素は無いつもりですが、彷彿して不快に思う方もいるかも知れませんのでご注意下さい。

 泣きそうな貌でやめろと懇願するアトラスの姿に、ドクンとユリウスの胸が高鳴った。

 遠い昔に忘れてきた感情の蓋が開きそうな気がした。


「今更何の用だ?」

 痛みを堪えながらアトラスは問いかける。

「こっちが散々探していたのは、どうせ知ってるんだろう?それを無視していたくせに、今更呼び出して!」

 怒鳴り散らすのは痛みを誤魔化す意味もあるのだろう。

「だいだい、この(なり)はなんなんだ?なぜ歳を取らない?お前か何かしたんだろう?」

 アトラスは怒っている。それはユリウスにも判った。だが、何を怒っているのかは解らない。

「肉体の最盛期で止めてある。ヒトの身体は脆く劣化も早い。四十歳を越えた頃から口を揃えて言い出すんだ。二十代、三十代の若さが懐かしいとか取り戻したいとか。それを維持していて、何を怒っているんだ?」

「そんなこと、頼んでいない」

 当然だ。頼まれていない。

「だが、止めておかないと、お前は()()約束を果たさずにすぐにいなくなってしまう」

「だから、約束って何なんだよ!した覚えも無い約束を言われても、こっちはどうのしようもないんだ!」


 またか、とユリウスは思った。今度のは違うのではないのかと、淡い期待をしていた。

 この気持ちは「落胆」である。何度も体験してきた。


「なぜ、俺やアウルムは救ってレイナは救わなかった?」

「……お前は、いつでもあの女なのだな」


 面白くない。

 もやっとしたものが渦巻いた。

 この感情は「怒り」だ。


「うるさいな」

 ユリウスは煩わしくなって、人間がするように唇で口を塞いでみた。

「……っ!」

 アトラスが声にならない声でなにか言っているが無視した。

 唇をこじ開けて、脆いところに踏み込んでみたら面白い反応が却ってきた。

 なるほど、これは甘美だ。

 今度は胸の奥に柔らかな風が吹いた。この感情は何だろうか。

 もっと味わっていたかったが、唐突に終わらされた。


「何をするっ!」

 渾身の力で押し返され、離される。

 無理やり逃れた為、アトラスの唇は切れていた。

 何をしてるのだとユリウスは呆れた。

 殴って腕が折れるのだから、さらに柔らかい唇など、歯に当たる程度で切れるのは想像に難くなかろうに。


 ふと、血の匂いが芳醇な果実の様に香った。

 指先で血を拭ってやると、アトラスは恐ろしいものでも見るような顔で後ずさる。


 肚の中に何かが湧いた。この感情は知っている気がした。

 

 指に付いた血を舐めてみる。

 美味いと感じた。

お読みいただきありがとうございます

次話も【閲覧注意】です

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