表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十章 盟約
186/374

■月星暦1573年6月②〈二〇二〉

 目深にフードを被り、目的の通りに向かう。

 日は落ちているとは言え、その通りはより灯りが少なく感じる。

 通り自体の灯りは少ないが、角燈を持った女性ーーたまに男性が混ざっているーーが、道の両脇に待ち構える様に立っていた。

 露出の多い装いで、婀娜っぽい仕草で声をかけてくる。

「お兄さん、どう?」

「安くしとくよ」

「ご奉仕させてもらいますわ」


 交渉成立したらしい男女が立ち並ぶ宿に入っていくのが見えた。

 つまりは、そういうことだ。

 ここは花街では無い。

 店専属の女郎がいる訳では無い。街ぐるみで取り締まる者がいる訳では無い。

 女性達はそれぞれ自営業者という位置づけである。

 この通りに立ち並ぶのはいわゆる連れ込み宿。


 知識としては知っていたが、来るのは初めてである。

 こんな場所にアトラスを呼びつける神経が知れない。


 アトラスは絡みつく女達の視線と声を無視して歩みを進め、目的の店を見つけた。


  ※※※


 受付には目つきの悪い、痩せた男が店番をしていた。

 札を見せると階段を指差した。

「二階の奥から二番目の部屋ですわ。代金は頂いていますよ」

 言って、男は下卑た笑みを見せた。

「お兄さん、あんな別嬪さんはなかなかいないよ。いい夢を」


 呼びつけた者が「アトラス」の名を出されなくて良かったと思った。その程度の良識はあるらしい。

 この国でも前王の伴侶として、それなりに知られている名である。

 もっとも、今のアトラスを見て本人とは思う者はまずいないだろう。

 アトラス・ウル・ボレアデス・アンブルは五十歳を過ぎている。誰が見ても三十歳頭としか思わない見てくれでは、歳が合わない。


 『二〇二』とは二階の二番目という意味らしい。

 指定された部屋は、寝台と鏡台が一つづつ。それだけの殺風景な部屋だった。


 窓を背に、女が立っていた。

 月灯りに照らされて、浮かぶ姿は青味がかった砂色の長い髪。切れ長の目にすっと伸びた鼻梁。

 女性自身が発光しているかの様に、薄暗い部屋の中で細部までその容姿を確認することが出来た。


 アトラスの記憶にあるそのままの、二十五歳当時のイディールの姿。

 ただし目がやけに蒼い。

お読みいただきありがとうございます

参照画像 イディールさん25歳

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ