■月星暦1573年6月①〈木札〉
時系列的には、九章の三年前になります。
とうとう謎の男扱いだったユリウスに焦点が当たります。
が!☆付きの4話〜9話は、不快に思う方もいるかも知れませんので閲覧にはご注意ください。一応、11章で他の人物に簡単にですが語らせる予定です。宜しくお願いします。
この章から以降平日の8:00更新予定です。
その日、アトラスはファタルで少し早い夕食を取っていた。
港の漢達をターゲットにしている為、大盛りで安くてついでに美味いのが売りの店である。
白身魚に衣をつけた揚げ物、野菜がゴロゴロ入ったトマト風味のスープにパン。揚げ物の味付けは単純にレモンと塩だけだが、海辺の街なだけあって、新鮮な魚はそれだけで充分美味い。スープも魚の出汁が効いている。
冬至を過ぎたばかりで日が落ちるのも早い。辺りには薄闇が漂っている。
夜はファタルで宿を取るか、久しぶりにアセラ迄足を延ばすか。麦酒を流し込みながら考えていた時だった。
店に入ってきた少年がきょろきょろと見廻し、アトラスを定めて近づいてきた。
「レオンさまですか?」
周りに聞こえないよう、声を潜めて尋ねてくる。
その名を出されてぎょっとするアトラス。警戒を露わに少年を見据える。
「誰だ?」
「いえ、良いのです」
少年は、訳知りの顔で頷くと、手に何かを握らせてきた。
「これを店番に見せてください。お連れさまかお待ちです」
囁いて足早に去って行く。
今のアトラスに連れはいない。『レオン』とアトラスを呼ぶ者は一人しか思い当たらない。
まさかと思いつつも、その者が会いに来る理由も、アトラスがここにいるのを把握する可能性も考えにくい。
今、アトラスがファタルにいることに意味はない。たまたま立ち寄っただけだからだ。そもそも、アトラス程の立場のある者が寄るような店ではない。
怪訝に思いながら、代金を支払って席を立つ。
渡されたの木札だった。札には店の名前と番地。裏には『二〇二』という三桁の数字。
知らない店の名だが、番地を見て眉根を寄せる。あまり近寄りたく無い地帯だった。
ますます件の人物では無いと確信する。無視する手もあるが、それはそれで気になって気持ち悪いので行くことにする。
自覚しているが、元来好奇心には弱いのだ。
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