表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
九章 後継者
183/374

□月星暦一五七六年一月末⑮〈後継者〉

□視点レクス

登場人物紹介はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n1669iy/14

「レクス・リウス・ボレアデス・アンブル殿下」


 フルネームで呼ばれ、レクスが顔を上げると、アトラスの静かな視線と目があった。


「今回の諍いはちょっとした異常事態だったと思って流しなさい」

「どういう意味です?」


 タビスとして剣を持って内戦を終わらせた英雄の言葉とは思えず、レクスは問い返す。


「これからの時代、剣術も戦術も磨く必要はない。かつてあった技術位の認識で良い。そんなもの、経験せずに済むなら、それに越したことはないのですよ」

「叔父上は、人の使い方、物の使い方を今回の戦場で教えて下さったではないですか!」

「お教えしたのは技術では無い。戦場という場を通して、物事を多角的に判断する必要性です」

「はい?」

「上からの弓の攻撃はよく入ったでしょう? タイミング良く発動させた仕掛けは効果があったでしょう? 投石機は上手に軌道修正してみせたでしょう?そういう手段があることは、盤上を睨んでいるだけでは判らなかったでしょう?」

「はい」


 レクスは頷く。

 レクスが逆立ちしてもでてこない発想で、一週間費やしてどうにも出来なかったことを半日で解決された。彼が抱いた感情は悔しさでは無かった。


 羞恥はどこかに行ってしまった。

 純粋に凄いと思った。

 これがか、と感嘆した。


 同時に、この人にはどう転んでも敵わないと感じた。納得してしまった。


 だからアトラスがなぜ、そんなことを言い出したのか、レクスは理解が追いつかない。


「殿下。情報を集め、視野を広げてこちらに有利な場で戦うーーそれは戦場に限った話ではありません」

「はい?」

「先程、私が先程評価したのは交渉の成果の方です。これから必要になるのはそんな交渉術といった技術の方です」


 血など流さずにすむなら、それに越したことはないのだと、アトラスは自嘲気味に語る。


「アウルムは平和を享受する土台を作った。後はあなたが発展させなさい」

「えっ……?」

「そう遠くないうちに、アウルムは退位を表明するでしょう。次はあなたの番です」

「そんなことはない!」


 思わずレクスの声が大きくなる。


「叔父上、次の王にと周りが望むのは叔父上の方だ。父上だってそう思っていらっしゃる」


 ずっと胸につかえていた言葉を吐露するレクス。


「父上は叔父上を見て喜んでいらした。今までだって、ずっと叔父上には傍らにいて欲しがっていた。父上の改革も、土台は叔父上の報告書だと聞く。叔父上は竜護星で実質政務経験もあるし人を使い方も上手い。人は叔父上になら付いていく。実績も人望もある叔父上を望む。そのお姿を見れば、誰だって!私なんかより!」


——叔父上の方が、相応しい。


 最後まで言い終える前に、アトラスは静かにレクスの言葉を遮った。


「それは誇張です」

「そんなことない!」


 二十四歳という年齢よりも幼く響くレクスの声。

 アトラスは苦笑しながら首を振る。


「レクス殿下、『私』は何者ですか?」

「……王の弟で、私の叔父で、タビス……」

「その『(タビス)』があなたで良いと言っているのですよ」


 レクスの考えなど見透かした様にアトラスは紡ぐ。


「王の後継はあなたです。あなたが即位したなら、私は継承権は放棄する。そうアウルムには進言するつもりです」


 自分は万が一の保険だったのだと語るアトラスの目は真剣そのものだった。


「私のことは牽制としてお使いなさい」


 レクスの後ろにはアトラスが居ると知らしめろと言うことだ。『タビス』の肩書は説得力がある。タビスが女神の代弁者という認識は月星人の根底に根付いている。


 また対外的にも、今回の隣国蒼樹星の敗北を通じて、月星にはタビス存りと広まることだろう。賢い国主なら無闇に手を出すことはしない。


「殿下、己の未熟を認められ、臣下の働きを当然のことではなく、素直に助力と思えるあなたなら、良い君主になることでしょう」


 この(なり)露見した(バレた)ことだし、これからは頻繁に月星に顔を出すとアトラスは言い添える。


「私に、できるでしょうか?」

「この形が見てくれだけなのか、中身も伴っているのかは判りませんが、私の力及ぶ限りあなたを支えましょう」


 子どものころは父のようになるのだと息巻いていた。

 賢王たる父を越えることは難しくとも、さすがはアウルムの息子とくらいは言わせたい。

 レクスこの叔父の力添えがあれば出来るような気がしていた。


第九章「後継者」完

挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございます

【あとがき】

甘やかされて育っただろうに、規格外の父や叔父や従姉と比較されてきて、ちょっとひねくれ気味の王子さま。

アトラスが現れたとたん意見や経費の話とかするあたり、周りも手を焼いていたのでしょう。

レクスが懸念したことは、アウルムは考えないでもありませんでしたが口にはしませんでした。息子の方が可愛いということでもなく、アトラスが受け入れないのを理解しているからですね。

アトラスも事情があるとはいえ、ここで『タビスの一声』を使っちゃうのは、ちょっとズルい(笑)


時系列的な続きは三部になります。

次章「盟約」。

時は二年前、「こんな(なり)」の理由に迫ります。

宜しくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ