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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
九章 後継者
181/374

□月星暦一五七六年一月末⑬〈浄化〉

□視点レクス

登場人物紹介はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n1669iy/14

 椅子に倒れ込もうとするバオムの身体をアトラスは支えた。流血はない。


「バオム陛下、起きてください」


 アトラスは何食わぬ顔で王に呼びかける。


「アトラスさま、どういうことです!?」


 ルートが抗議するが、アトラスが口を開く前にバオムが目を覚ました。


「ご気分はいかがですか?」

「ああ、私は眠ってしまったのか」


 顔を上げたバオムは、憑き物が落ちたかのようにすっきりとした表情をしていた。


「とてつもなく気分が良い。こんな清々しいのは久方ぶりだ」

「それは良うございました」

「陛下、その、お身体は何ともないのですか?」


 平然としているバオムに、ルートの方は面食らっている。


「うむ、『タビスの祈祷』とはすごいな。アトラス殿、感謝する」

「お役に立てて何よりです」


 アトラスはバオムとルート、そしてレクスの顔をゆっくりと順に見回した。


「『タビスの祈祷』は滅多に行いません。ここで見聞きしたことは他言無用でお願いします」

「なるほど。知れ渡ったら、やってもらいたがって行列が出来てしまいますな」

 承知したとバオムは晴れやかに笑い、ルートにも釘を差した。


 ルートは何か言いたげだったが、アトラスの顔を見て飲み込んだ。理解はしていないだろうが、妙に腑に落ちたらしい顔をする。

 バオムは笑顔のまま、レクスに向き直った。


「この度の我が国の非礼に対して、寛大な処置を賜ったことを改めて深く感謝する。アウルム陛下にも宜しく伝えてくれるだろうか」

「勿論です」


 背中からの圧を感じてレクスは一つ忠告を添えた。


「今後、竜護星の巫覡の言葉には耳を傾けて下さい。マイヤ陛下が警告を出す時は、余程のことですから」

「心得た。私も今回のことで身にしみて理解した。ーー貴国とは今後は末永く、良き隣人でありたいとお伝えして欲しい」


 晴れやかなバオムを前に、レクスは何とか取り繕ったまま城を後にした。


   ※※※


「叔父上、先程の『祈祷』はなんだったのですか?」


 馬車に乗り込むや、レクスはアトラスに問いかけた。


「殿下は、魔物退治のユリウスの話はご存知てすね?」

「あの、御伽噺の?」

「先程使ってみせたのが、まさにその剣なのですよ」


 レクスは揶揄われているのだと思ったが、アトラスの思いの外真摯な口調に息を呑む。


「私はユリウスに何度か会っておりましてね。魔物絡みの案件に遭遇し、(くだん)の剣を本人から預かっているのです」 


『ユリウスに会ったなんて、そんな莫迦な!』言いかけた言葉をレクスは飲み込んだ。


 ひたとレクスを見詰めるアトラスの青灰色(そらいろ)の瞳の奥に、見かけ通りでは無い年月の重みを垣間見た気がした。


「……それは、叔父上がタビスだからですか?」

「そうなりますかね」


 苦笑気味にアトラスは肯定した。


「では、あの王は魔物に憑かれていたとでもいうのですか?」

「完全に、ではありませんでした。生成りとでもいいましょうか。時間の問題だったでしょうがね」


 最初に比べると、別れ際の王バオムは充分別人の様に朗らかに見えた。そうレクスが指摘するが、アトラスはは首を振る。


「完全に憑かれると、人格が豹変します。あの王はまだ、自我が残っていましたから」


 古い魔物なら、タビスがユリウスの剣を保持していることを知っている。あの王はタビスと聞いても警戒をしなかった。魔物は意識を共有するとも言うから、魔物としても完成されてなかったのかも知れない。だから生なりという言い方をしたのだとアトラスは語るが、レクスにはいまいちそのあたりの理屈は理解できなかった。


 この冬の災害に、急激に増えた不安、不満、憤懣、落胆、全てが経験の浅い王に向けられた。回らない対策。悪循環。どうしていいか、王自身も判らなくなっていた隙を突かれ、急激に成長した負の塊に飲み込まれかけた。そういうことらしい。


「後の方が元来の性格なのでしょう。つき合いやすそうな方で良かったですね」

と、アトラスはレクスに微笑んだ。


 レクスはアトラスが言外に含んだ意味を悟り、息を呑んだ。

お読みいただきありがとうございます

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