□月星暦一五七六年一月末⑪〈蒼樹星〉
□視点レクス
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崖と海に挟まれた細い街道を抜けると、雪が深くなったのが目に見えて判った。
街道沿いには街というよりは漁村と言い換えた方が良さそうな集落がいくつか見えたが、いずれも人の姿は見えなかった。既にニクスに避難したのかも知れない。
蒼樹星最南の港町を越えた先に先に、蒼樹星首都フォリウムはあった。
高低差は乏しく、街は堀で囲まれていたが、堀の水は凍っている。
店はその多くが固く閉ざされ、煙突から煙が出ている家は少ない。何軒かで集まって暖をとっているらしい。
古い納屋や木柵、家具などが壊されて薪用に積み重ねられていた。燃やせるものは何でも代用にしようという意図が見える。
少ない薪と食料はかき集められ、数箇所に分けて炊き出しに使われていた。
王の名代として赴いたレクスと護衛を乗せた馬車を先頭に、見張りと捕虜を乗せた荷馬車、物資を積んだ荷馬車が数台という一行は、悪路に足を取られながらも午後には目的地フォリウムの王城に到着した。
城の中も極力節約がなされ、官達は外套を着て仕事をしている。灯りも必要最低限しか灯されておらず、城内は全体的に暗い。
白い壁に木製のアーチが美しい謁見室で、蒼樹星の国主、バオム・アスト・フォリアは待っていた。
若い王だった。
レクスと齢は大して変わらないだろう。彼より若干若いかも知れない。栗色の髪には艶がなく、眼下も落ち窪んでしまっている。覇気がなく、酷く疲れた顔をしていた。
月星王の名代として赴いたレクスは、蒼樹星に多額の賠償金を請求する代わりに、捕虜の返還と冬を凌ぐ為の食料等の供給、期間限定であるが漁猟許可を認める温情をみせた。
海が解ける迄はニクスの港の使用を蒼樹星側は要請し、レクスが承諾すると、バオムは生気の無い蒼い顔で全てを受け入れた。
賠償金については、蒼樹星の主要な収入源である木材の流通が回復しなくば用立てられ無いと、分割での支払いを要求し、レクスは承諾した。
※※※
会談が終わる間際、ずっと黙ってレクスの後ろに護衛として立っていた黒衣の男がレクスに耳打ちした。
レクスは、謁見後に王と個人的に話がしたいと人払いを申し出た。一対一では不安もあろうと、お互い一人づつ護衛を付けた上で対談を提案し、バオム王はその条件を飲んだ。
レクスが蒼樹星に赴いてはいるが、主導権は月星側にある。蒼樹星側は断れない。




