■月星暦一五七六年一月末⑦〈仕込み〉
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「これは懐かしい面子ばかりだ」
入ってきた者達を見て、面白そうにつぶやいたのはアウルム。
アトラスに呼ばれ、彼の従者でもあるサンクが連れてきた古参の者達は次々に目礼して、急遽用意された簡易椅子に着席する。
アウルムよりも年嵩の者も多い。
よく見ると外套だけが黒で統一していたが、下に着込んでいる物は様々である。
現役の者達からは溜息が漏れた。
アトラスやアウルムと共に、激動の時代を文字通り駆け抜けた者達である。
「おや、隊長。覆面はもう良いので?」
からかう様に言うのは元弓月隊の副隊長タウロ・アウダース。アトラスの副官だった男である。六十代半ばになろうという歳の筈だが、筋肉質の大きな体躯は未だ維持されている。
「兄には一目でばれたよ」
「だから言ったじゃないですか。気にしなくて良いって」
がははと大口を開けて笑うタウロの気やすさに、場が和んだ。
「外は寒くて、老骨には腰が辛うございますわ」
ボヤいたのは元新月隊五席のペンテ。元十六夜隊の三席のトレスが苦笑いで同意する。二人ともそれぞれ弓の名手として名を馳せた人物である。
天幕の外に待機している者も含め、総勢三十ニ名と聞いてアウルムが感心する。
「短期間でよく集めたな」
「弓月隊は隊長の為なら、いつだって再結成しますよ」
タウロが微笑し、「アトラス様の華麗な作戦がまた見られるなら、喜んで参加させていただきます」と、かつて秘密の夜襲に付き合わされたノイやペンテなどは嬉しそうですらある。
「神殿の伝手、ファルタンの伝手に竜と、総動員でさすがに大変でしたけどね」
アトラスは苦笑する。
「アトラス様、お久しぶりでございます」
アトラスに声をかける者がいた。ずっと軍議の席で待機していた、主力部隊の現隊長。今回はレクスを司令官とし、その副官という立場にあたる。
「若い頃、稽古をつけていただいたことがあります、オクトです」
「覚えている。たしか十六夜の八席だったか。出世したな」
オクトの頬が緩む。覚えられていたことが純粋に嬉しいという顔。
「恐れながらお聞きします。この十年余りというものお姿を拝見することはなく、亡くなられているという噂さえありました。何をされていたかを伺っても?」
「こんな形の原因を捜していた」
微妙な言い回し。
探って、でなく捜してと言った。
まるで、原因は解っているかのような言いよう。
「……その死亡説とやらが、向こうさんに勝てるかも知れないという勘違いをさせてしまった一因だ。そんなことはないと、しっかり身を持って知ってもらわねばならない」
それ以上の追求を許さず、いきなりアトラスのは本題に持っていく。
「ノイ、例の仕込みは?」
「完了しています」
名を呼ばれたノイ・モントは、かつてあった奇襲を得意とする新月隊に所属し、ネウルスが辞した後は隊長をしていた。
「殿下、差し出がましいかとは思いましたが、ちょっとした策を講じました」
負傷兵の救助、散乱した武器の回収部隊に紛れて、戦場に仕掛けを施してきたと話すノイは、皺の刻まれた口元に笑みを浮かべてレクスを見やる。
「今晩は冷え込みます。うまくハマれば、面白いものが見られますよ」