□月星暦一五七六年一月末③〈異様〉
□視点レクス
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レクスの叔父、アトラス・ウル・ボレアデス・アンブルが最後に月星に姿を現したのは月星暦一五六五年十月。レクスがまだ十二歳だった月の大祭だった。
その頃も四十歳代半ばにしてはやけに若いなという印象はあった。
だが少年の目から見れば若く見えるが大人は大人。二十歳代も四十歳代もよく判らない。
然程気にするほどでもない誤差という認識だったが、レクス自身が二十代になった現在、その異常さが身を持って理解できる。
今以て、三十歳前後にしか見えない容姿。事情を知らぬ者が並んだ彼らを見れば、アトラスの兄弟と判断されるのはアウルムではなくレクスの方であろう。
「……お久しぶりです」
「うむ。息災で何より」
応えたアウルムに動じた様子はない。
「知っていたのですか?」
むしろ、アトラスの方が面食らっている。
「マイヤにお前のことを尋ねたら、珍しく言い淀んでいたからな。まさか歳を取っていないとは」
相変わらず、想像の斜め上を行くとアウルムは笑う。
それで済まさないで下さいと、レクスは父譲りの蜂蜜色の頭を抱えた。
竜護星の国主、女王マイヤはアトラスの娘にあたる。
今年三十二歳だが前王レイナが身罷るのが早かった為、既に在位十六年目。
内政的にも外交的にも定評のある治世はレクスの耳にも届いている。
「先程の突入のタイミングは流石だな。マイヤが視たのか?」
「従姉殿も視ていたのなら、砦が強奪される前に報せて欲しいものです」
レクスの口調に、咎めるような色が滲む。
巫覡であるマイヤは、先のことを見通す目を持つ。
出来た従姉の存在は、賢王と称えられる父王に加えて、レクスの焦りの一因とも言えた。
レクスはまだ何の実績を持たない。
「砦の強奪をマイヤが視た時には、警告する時間はありませんでしたので、対策の方に手が必要かと思いましてね」
月星にはタビスたるアトラスには使える伝手がある。竜護星には短期間で距離を稼げる手段がある。
「差し出がましいかとも思いましたが、若干てこずる画が視えたそうなので人を集めました」
アトラスは濁したが、羞恥でレクスの耳が赤く染まった。膠着し打開策が浮かばないレクスの状況が、マイヤにはしっかり視られていたということである。
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