□月星暦一五七〇年〈憶測〉
□視点アウルム
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「マイヤはまだ十代の少女だし、母親が亡くなったばかりなのだから側にいてやりなさい」
アウルムの一言でアトラスの処遇は決まった。
国主が代替わりし、その形を月星王が許しても、アトラスが竜護星に『貸し出されている』状態は変らない。
月星暦一五六五年の大祭以降、アトラスが月星に姿を現さなくなった。
マイヤは竜護星の国主として当然問われる。
なぜタビスが大祭に出てこないのか。月星に姿を現さないのは理由は何か。
「わたくしは月星の者ではこざいませんけれども、アトラスの娘ではあります。父の言葉の意味は心得ているつもりです。その父が『出ない』そして『伝えない』ことを示したのでございます。その真意、察してはいただけませんでしょうか?」
レイナには無かった強かさで、マイヤは一蹴する。
しおらしく振る舞いながらも、タビスの意味を正しく理解し、しっかりと拒絶する姿勢はアトラスの娘だけはある。よく似ている。
暗にそれが女神の意志と匂わされれば、月星人は黙るしかないのだ。
だからアウルムは違う手順を踏む。
伯父として姪を露台に連れ出して尋ねた。
「アトラスは元気か?」
「もちろんです、伯父様」
是か非で答えられる質問の方が、マイヤははぐらかせない。
「大方、ヒトならざる者の思惑に翻弄されているのだろう?」
「……」
マイヤは否定はしなかった。
言葉の重みを識る巫覡であるマイヤは、嘘を紡ぐことを無意識に嫌がる。
「あいつも大変だな」
そう笑うと、月星の重鎮を華麗にあしらっていたのと同じ口が言い淀んだ。
「……アウルム伯父様には会いたいのだと思います」
零す言葉には、アトラスを気の毒に思う色が垣間見えた。
『アトラスは元気でいる。会いに来たいが会えない事情があり、ユリウスが関わっている』と、アウルムが引き出せだ情報はこれだけだが充分だった。
ユリウスは思惑が測れないという意味では厄介であるが、自身の目的にアトラスが必要であることはかねてから示している。アトラスの命が脅かされるようなことは無い。
その道が絶たれないようにする為には、超越した力を使うことも厭わないことを、アウルムは身を持って知っている。
※※※
娘は解っている。
兄も理解した。
しかし、そこに至らない者たちは邪推する。
タビスの影響力は絶大である。故に、すでにタビスが居ないことを、月星と竜護星が口裏を合わせて隠しているのではないか、と。
アトラスが月の大祭に出て来なくなって十年が経とうとする頃には、死亡説がまことしやかに流れていた。
第八章「軌跡」 完
お読みいただきありがとうございます
八章第二部一弾は主要キャラが一人いなくなることによって変わる状況を、地均しする感じでした。
そして、蓋をあけてみたら主人公のメンタルが想定以上に豆腐で、ずっとカウンセリングしてる気分でした。
娘や妹や部下の前では気張っちゃう。
友人とは同病相憐んじゃう。
一人にしてみたら悪化する。
ならこの人しかいないと兄を投入しても一手足りない。
次に繋ぐピースとして登場した人物が、思いの外良い働きをしてくれました。
次章「後継者」宜しくお願いします




