■月星暦一五六〇年六月④〈吐露〉
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アウルムに怒鳴られて、アトラスの仮面は剥がれた。もう取り繕えない。
「……寝てはいますよ。酒と香の力を借りてなんとか、ですが」
船上にいる間にどうにかしようとした。そう思っていたのに、むしろ竜護星を発ったときよりひどくなっている自覚はある。
「食事も摂ってはいます。味は良く判りません」
アリアンナ達が心配するから、出されたものを無理やり詰め込んできただけだ。
「……ずっと、考えてしまうんです」
アトラスは俯いたまま顔を見せない。アウルムを見ようとはしなかった。
「なんであいつだったんだと。なんで、あいつが苦しまなきゃならなかったんだろう? 代われるものなら代わってやりたかった」
アトラスは顔から手を外し、両掌を見つめて吐き出す。
「なんで、俺じゃないんだと、幾度思ったか判らない」
座り込んだまま、アトラスは大きく息を吐いた。
「俺の手はこんなに血に汚れているのに、なぜ召されたのがレイナだったんだ。いくら殺されても文句の言えない俺じゃなくて! なんで、あいつだったんだよ!!」
マイヤの手前、表には出せずに肚に溜め込んできた想いが、堰を切って溢れ出た。
「何もできず、弱っていく姿を見せられて。それが俺への罰だったとでも言うのか……」
※
レイナの死とアトラスの過去に因果はない。
口にするのは容易いが、そんな言葉はアトラスには刺さらない。
こんな時はレイナが一言、言えば良かった。
「莫迦ね。そんなの、関係ないじゃない」
それで解決した。それだけ深く、レイナの存在はアトラスの心に跡を遺した。
だがその手段は喪われた。
たとえ兄でも、アウルムには代われない。
だからアウルムはとことん聞いた。時折相槌をうちながら、アトラスに溜め込んだものを吐き出させた。
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