□◼️月星暦一五六〇年六月②〈合図〉
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□■視点ハイネ→アトラス
航海中、アトラスは一度も竜を使っての寄り道をしなかった。
船室からも殆ど出てこない。何をしているという訳でもなく、ただ碧い海を眺めてばかりいた。
心配したハイネが何度か様子を見に行くが、
「月星に着くまでには浮上するから、暫く放っておいてくれ」
という答えしか返ってこなかった。
※※※
月星リメール港で船を降りたアトラスは黒衣の正装を纏っていた。リメールからは馬車を使い、そのまま登城する。
「アリアンナが初めて竜護星を訪れた時に着ていたものに似ているね」
ハイネが声をかけると
「当然だろう。同じ衣装だからな」 と、意外な言葉が返ってきた。
「当時の衣装がまだ着られるのですか?」
アリアンナが驚きの声を出す。
「生地と仕立てが良いのだろう?そう頻繁に着る服でも無いしな」
応えるアトラスに、『そこじゃない』、とハイネとアリアンナは心の中で突っ込んでいた。
二人とも、二十代頃と寸法が変わってないことに驚いていたのだが、アトラスには伝わらなかったらしい。
※※※
アンバル迄の道中は、リメールの沿岸警備隊が護衛に同行した。彼らは港の警備だけでなく、要人警護も仕事の内である。
街に到着し、馬車に乗車しているのがアトラス達と確認した門番は、大きな鐘を打ち鳴らした。街壁には白と紫との半々に塗り分けられた旗が掲げられる。
「なんだ、あれは?」
「あなたの帰還がすぐに判るよう、神殿側と考えました。いつも唐突に帰ってこられるので対応が間に合わないと、以前から問題になっていたのですよ」
我ながら良い案だと満足気なネウルスに、準備なんてどうでも良いのにとアトラスは独りごちた。
鐘の音に沿道に人が集まってきた。走りゆく馬車に向かって拝む者までいる。
静かに帰らせてくれた方がよっぽど良い。
アトラスは深々と溜息をついた。
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