■月星暦一五六〇年六月①〈不可視〉
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月星へは竜ではなく、船を使うことになった。
ネウルスが頑なに船での帰還を誇示した為だ。
曰く、宰相の自分がわざわざ出向いてお迎えにあがったのだから、正式な形を整えて、船でお帰りくださいとのこと。
「ネウルス、お前、船酔いに弱いだろう?」とアトラスが言うと、
「良い酔い止めが今はあるので大丈夫です」とネウルスは言い切った。
色々と言葉を連ねてはいたが、単に竜に乗りたく無かっただけかも知れない。
※※※
「すまんな。レイナの喪も明けないのに」
「こちらは大丈夫です、お父様。しばらく弔問客しか来ませんから」
言葉とは裏腹に、抱擁から離れたマイヤの顔は浮かない。
「やっぱり視えません……」
マイヤにはアトラスを視ることができないという。
全く視えない訳では無いらしいが、ひどく霞むのだという。身体のどこかに触れていれば視えることもあるというが、必ずという訳では無い。
巫覡として、視えすぎるマイヤには、視えないことが落ち着かない。
「マイヤを頼む」
アトラスはマイヤと共に見送りに出てきていた三人に声をかけた。
「お任せください」
応えた一人は女官頭のペルラ。マイヤのことは赤児の頃から知っている。
もう一人は護衛兼侍女のウパラ。ライとペルラの第一子である彼女は、サンクに色々と仕込まれている為、腕っぷしも折り紙付きである。
三人目は宰相のセーリオである。
月星側が宰相のネウルスを送ってきたのだから、竜護星側もセーリオを向かわせるべきだという声もあった。だが今、宰相はマイヤの側にいて欲しい人材である。
代わりにライが竜護星側の名代として同行することになった。ライはアトラスの副官を務めていた上、アウルムと個人的に付き合いのあるファルタン家の人間でもある。
アトラスの護衛兼従者としてサンクは当然同行。女性の手が必要でしょうとペルラはアリアンナにハールを付けた。サンクとハールは夫婦である。
元神官であり、弓月隊所属だった月星出身のサンクは、アトラスに仕える為に月星から付いてきた。アトラスの処遇如何で、彼もまた身の振り方を考えねばならない。
ペルラがハールを同行させたのも、その辺りの事情を鑑みたからだろう。
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