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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
八章 軌跡
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■月星暦一五六〇年六月三日〈宰相〉

 レイナの功績としてよく挙げられるのは、レオニスを倒したこと。アトラスを伴侶としたこと。マイヤという優れた巫覡を産んだこと。


 そして、竜に乗れる者を発掘し、積極的に雇い入れたことだろう。


 竜護星に生まれ育ったからと言って、誰もが身近に竜と接している訳では無い。

 自身がアシェレスタの素質を持ちながらも気づかない者は案外多い。


 竜を扱える者がいるということは、巫覡がいち早く得た情報を、より早く活用できるということに繋がる。

 早く正確な情報伝達は、竜護星ならではの強みとなった。


 竜で直接乗り入れることに理解を示してくれる国も増えた。今回の様に緊急性を伴う報せを伝える場合、ありがたい限りである。


 竜は騎乗者とは別にもう一人乗せることを許してくれる。だが、さすがに乗りたがる者は少ない。

 レイナの訃報に対しても、使者に弔辞を預け、後日弔問に伺うという対応が多い中、実際に使者と共に使いが竜護星を訪れたのは月星と隣国の朱磐星の二国だけであった。


   ※※※


 月星の使者はネウルスだった。アルムが退任したあとの宰相という肩書を受け継いだ立場である。

 宰相自らの訪問に、月星王アウルムの気遣いが伺える。 

 ネウルスはハイネとアリアンナの喪服まで持参していた。こういう周到さはあり、王の副官として有能、任務に忠実なネウルスではあるが、配慮に欠けるという面が少なからずある。


 到着したネウルスは先ずアトラスに挨拶をした。


「ネウルス、違うだろう」


 アトラスは溜息混じりに嗜める。

 ネウルスはアトラスが——タビスが月星にいないことを、未だ快く思っていない。何歳になろうがネウルスはネウルスであった。

 それでも、慣れない竜に同乗して来たのは彼なりの誠意なのをアトラスも解っている。


「失礼しました。竜護星次期国主にお悔やみ申し上げます」

「ご丁寧にありがとうございます。……父の事情は理解していますのでお気遣いなく」


 改めてマイヤに向かって口を開くネウルスに、マイヤは大人の対応を見せた。


 レイナの葬儀の喪主はマイヤである。


 息子のウェスペルの時にアトラスが着用したのは通常の喪服だったが、今回は事情が違う。アトラスがタビスの葬送着を着用することは、自らが月星の者であること示し、マイヤを立てる意味を持つ。


 ネウルスはアウルム直筆の弔辞をマイヤに渡すと、アトラスに向かってアウルムの言付けを伝える。


「終わりましたら、殿下は月星に一度お戻りください。今後の事を話し合わねばなりません」

「解っている……」


 自ら月星の者と示しているように、アトラスの戸籍は月星にある。レイナの伴侶として『月星から貸し出されている』立場である為、レイナ亡き後は月星に戻らねばならない。


「ネウルス、今言うことでは無いでしょう」


 居合わせたアリアンナが苦言を呈した。この二人は昔から反りが合わない。

お読みいただきありがとうございます

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