表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
八章 軌跡
159/374

■月星暦一五六〇年六月二日⑤〈虫の知らせ〉

登場人物紹介はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n1669iy/13/

 アトラスが衣服を改め終えたころ、控えめに扉を叩く音がした。

 問わずとも誰だか判った。

 扉を開くと、籠を持ったマイヤが居た。

 目が腫れている。


「お互い、ひどい顔だな」

「そうですね」 


 マイヤはアトラスの装いを見て驚いていた。



 鈍色に染め上げられた月星の神官服に濃い紫の帯を締めている。その上には黒地の上に黒い糸で細やかな刺繍が施された、長い薄手の上着を羽織っていた。

 葬送時のタビスの正装。

 それを纏う意味は存外深い。


 マイヤは(テーブル)の上に籠の中身を並べた。二人分のお茶とスープにパン。

 そういえば、朝食が未だだったことすら忘れていた。


「食欲は湧かないとは思いますが、少しでも入れておかないと」

「そうだな。これから、長いしな」


 向かいあって、食事に手を付ける。

 口に入れて、こんな時でも腹は減るのだと案外冷静に感じていた。


「すまなかったな」


 アトラスはレイナとの最期の時間を独り占めしたことを詫びた。

 例え娘と言えど、譲りたくはなかった。


「大丈夫です。身支度を手伝っている間に、お別れは済ませましたから」


 気丈な娘に、アトラスはかける言葉が見つからない。


 マイヤは十六歳とは思えない程、良く出来た娘だと、親の目から見ても思う。その歳のアトラスは、色々と抱えきれずに月星から逃げ出したと言うのに。


「お父様、午後にハイネ叔父様達がいらっしゃいます」

「報せたのか?」


 それにしては、早すぎる。


「報せは飛ばしましたが、まだ着いていないと思いますが」


 マイヤも訳が判らないという顔。


「虫の知らせでも働いたのだろう」


 呟いて、窓の外を見やる。

 雲一つない空の青が、やけに目に痛い。


   ※※※


 マイヤの言った通り、午後になるとハイネとアリアンナが竜に乗って到着した。


 出迎えたアトラスの装いを見るや、アリアンナは口を押さえて座り込み、ハイネは挨拶もせずに城内に駆け込んだ。

お読みいただきありがとうございます

挿絵(By みてみん)

タビスの葬送服着用アトラス

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ