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■月星暦一五六〇年六月二日③〈鐘〉
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アトラスがレイナの身体を抱きあげて振り返ると、城へと続く小路の両脇にマイヤとモースが居た。
少し空けてライとサンク。
ペルラとエブル。
ストラ、ハール。
マイヤの侍女のウパラ、宰相のセーリオ……。
官が、女官が、護衛が、料理番が、近衛兵が、馬屋番がと、城に勤めるあらゆる者たちが、城までの小路に等間隔に並んでいた。
通り過ぎるアトラスの、その腕の中のレイナに黙祷を捧げ、順番に後ろに付いていく。
城の正面玄関を入ると同時に、鐘が鳴らされた。
八回。
弔いの鐘の音が、厳かにアセラの街中に響き渡る。
竜護星の城には聖堂が無い。
挙式も葬儀も儀式に当たる事項は謁見の間の配置を換えて執り行なわれる。
アトラスは謁見の間の、壇上にレイナの亡骸を横たえた。
頬にかかる髪を指で払う。もう、ぬくもりは消えかかっていた。
「後は頼む……」
振り返らず、背後にいる者に託すと、アトラスは足早に謁見の間を後にした。
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