表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
八章 軌跡
156/374

■月星暦一五六〇年六月二日②〈朝日〉

 湖の水面からうっすら靄が立っていた。

 昇り始めた朝日に、湖面は金色に輝いて美しい。


 湖畔の東屋で、アトラスの膝の上に抱えられ、肩に頭を預ける形でレイナは湖に目を向けている。


「綺麗ね……」


 レイナの声は囁きに近い。


「竜に乗ったの、久しぶり。昔を思い出した」

「あれは、楽しかったな」

「また、あんな旅がしたいわね」

「そうだな」


 叶わないことはお互い解っている。アトラスの、レイナを支える腕に力が入る。

 肉の落ちた細いこの身体には、もう生命(いのち)の重さが感じられない。


「アトラス、私を見つけてくれてありがとう」

「俺を選んでくれたのはお前だろう」

「そうだったかな?」


 視線が交わる。

 どちらからともなく、唇が重なった。


 レイナの腕がアトラスの頬に伸びた。その冷たい掌を支えるように、大きな手で包みこむ。


「大好きだよ」

「知ってる」

「また、私を、見つけて、ね……」

 海青(マリンブルー)の瞳が閉じられる。

「もちろんだとも!アストレア」


 わずかにレイナが微笑んだ気がした。

 力なく落ちる腕。生命の灯が完全に抜けたことを知る。

 アトラスは、まだ温もりを残す額に唇を落とした。


「お疲れさま」


 濡れる視界にすっかり昇った朝日が眩しい。

挿絵(By みてみん)

八章のイメージ画は、アトラスフィルターのかかった、ちょっと切ないイメージで描いていました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ