表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
八章 軌跡
155/374

□月星暦一五六〇年六月二日①〈違和感〉

□視点マイヤ

 その日、マイヤは寝付くことが出来なかった。

 拭えない違和感に、結局未明に(レイナ)の寝室を訪れると、レイナは起きて寝台に座っていた。

 起き上がるのが限界だったのだろう。座っているのがやっとという感じである。


「マイヤ、ちょうど良かった。服を着るのを手伝ってちょうだい。寝衣は嫌なのよ」


 マイヤは違和感の正体を悟った。

「解りました。どれにしますか?」

「若草色のを。ほかは貴女に任せるわ」


 身体の負担になる締め付ける下着は使わない。全部前開きのものを手早く選び、座らせたまま着替えさせた。


 一番外側に纏った古い意匠(デザイン)の若草色の衣に触れて、レイナは懐かしそうな顔をする。

 この衣装の由来をマイヤは聞いていた。初めて参加した月星の大祭で、アトラスと踊った時には着ていたものである。二十年近く前のものだが保存状態が良い。

 当時の体型より肉が落ちた為、生地が余ってしまっている。


「服って重いのね」

 呟くレイナにマイヤは頷くことしかできない。

 マイヤはレイナの髪を軽く整え、紅を挿した。


 見計らったような頃合いでアトラスが入ってきた。ちょっと驚いた顔をしている。


「起き、てたか。おはよう」

ーー起き上がって大丈夫なのか?

 アトラスが言いかけた言葉を飲み込んだのをマイヤは気付いた。

 大丈夫な訳が無いのだから、アトラスは無駄なことは言わない。

「懐かしいのを着てるな」

「貴方と朝日を見ようと思って」


 一瞬、レイナの隣に立つマイヤに視線が向けられた。マイヤはレイナに気づかれないように頷いてみせる。


「じゃあ、竜を呼ぶな」

 歩いていくだけの体力も時間も無い。

 アトラスは白み始めている空に浮かぶ露台の方に向かった。


 レイナがマイヤに向かって手を伸ばした。マイヤは駆け寄って支える。

「ありがとう、マイヤ。貴女は私の自慢の娘だわ」

 マイヤは目頭が熱くなったが、まだ泣く時ではない。

「当然です。お母様の娘なのですから」

 マイヤはいつもの声音で微笑ってみせた。そっと抱きしめて離れる。


 アトラスが戻ってきた。露台には竜が舞い降りてくるところだった。


「こちらを」

 いつの間にかペルラが来ていた。二人分の外套を差し出してくる。アトラスは手早く纏い、マイヤは受け取ってレイナの身体を包むようにかけた。


 アトラスは両腕でレイナを抱き上げ、器用に竜の背に乗る。


「いってらっしゃい」

 飛び立つ竜を見送るマイヤの肩にペルラの両手が置かれた。

「立派でした。もう良いですよ」

 その声に、堰き止めていた涙が溢れた。

 マイヤはペルラにすがって泣いた。年相応の少女の顔で、泣き崩れる。

 そんなマイヤの背を撫でるペルラの瞳もまた、涙に濡れていた。


お読みいただきありがとうございます

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ