表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
七章 偽りの王
151/374

■月星暦一五四三年十一月㉔〈予言〉

 数日後、フードを目深に被ったアトラスは、モースとエブルと共に帰路に立った。


 髪の色を戻せと言ったら、アトラスの髪色は難しいと言われてしまった。黒か茶辺りなら入れられると言うがそれは断った。戻らないのに痛みつけるだけの処置なら、生え変わるのを待つ方がマシである。

 せめてもと、いつもの髪型には切り直させた。襟足だけは刈り上げる程に短くしてある。

 辻褄合わせはアウルムの方にもしわ寄せが行った。今度はアウルムがアトラスに寄せて短めに散髪されている。


 心労で髪の色が抜けたとでも言い訳しようかと、アトラスは本気で考える。竜護星にアウルムの顔を知る者は少ない。それで通るだろう。


 陣頭指揮を執ったのは『アウルム』。復帰した『アトラス』は華麗に橙楓星の使者を追い出した。

 そういうことになっている。


 この数日間のことは話せないのだ。ならば一層のこと、無かったことにしたい。


 三人を出迎えたレイナには案の定、大笑いされた。

 モースとエブルの痛ましいそうな視線がいたたまれない。


「大変だったんだよ」

「そのようね。何をさせられてきたかは、大体想像がつくわ。お疲れ様」

 ぐしゃぐしゃとアトラスの髪をかき乱しながら、まだ笑っている。


 砦は奪還し、港街は護られ、アウルムは全快した。

 戦場で助力した竜護星の『ブライト氏』は臨機応変に動ける人物だと評価を上げた。

 ハイネとアリアンナの祝報が届くの日も、そう遠くないかも知れない。

 ユリウスが扮した『アトラス』の使者のあしらいが爽快だったらしく、結果、アトラスは何も喪うことなく竜護星に戻ってきた。

 結果は上々と言えるだろう。

 

 アウルムには『盟約』について尋ねられたが、アトラスにはまるで覚えが無い。

 過去四回の会話を思い起こしてみても、何かを約束した記憶は無かった。


「何にせよ、帰ってきてくれてありがとう」

 レイナが人目も憚らずに抱きついてきた。

「ああ、ただいま」

 アトラスはしっかりとその背に腕を回して応える。

「どんな手を使ってでも戻るつもりだたった」

「知ってる」

 身体を離すと、レイナは腕を絡めてきた。

「あの朝の続きをしよう」

 そのままアトラスは湖畔の東屋まで連れ出された。


 少し離れてライとサンクが付いてきている。

 あんなこと(襲撃騒ぎ)があった後である。護衛は外して貰えそうにない。


 寄り添い、湖に目を向けたままレイナが口を開く。

「アトラスに一つ予言をするわ」

 レイナには先代のような未来視(さきみ)の能力は無い。

「聞こうか」

 勿体ぶるようにレイナはちらりとアトラスを見ると、再び湖に視線を移す。


「アトラスはね、来年の七月位にお父さんになるのよ」


 一瞬意味が解らなかった。

 頑なに湖を見続けるレイナの正面に回り込んで視線を合わせた。

 はにかむ顔に意味が、感情が追いついてくる。


「レイナ!」

 アトラスは破顔し、妻を抱きしめた。

「おめでとう」

「うん」

 胸に埋められる顔、背に回される腕の熱が愛おしい。

「愛してる」

 こっ恥ずかしくて、はぐらかしてしまう言葉がするっと出てきた。

「ありがと」

 レイナの腕に力がこもった。


 良かった。

 戻って来られて本当に良かった。

 アトラスは、今ばかりは心からユリウスに感謝した。

挿絵(By みてみん)


第七章「偽りの王」完

挿絵(By みてみん)

七章の時系列の図解です

この男、こんな大事な台詞を作中一度しかレイナに口にしませんので、よーく噛み締めてやってください!


第一部 完 です

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ