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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
七章 偽りの王
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■月星暦一五四三年十一月⑯〈三文芝居〉

「会議中に失礼します。竜護星から御使者の方が到着されました」


 報告に来た使いの言葉に、ネウルスが目配せをした。アトラスは頷いてみせる。

「入ってもらって下さい」


 入室した人物の姿にアトラスは安堵した。声には乗せずに訪問に謝辞を述べる。

「宰相殿御自らのお越し、感謝します」


 一瞬モースは呆けた顔を見せたが、察しの良い彼は直ぐに取り繕った。


「この度は愚孫がご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません」

「いや、ハイネ殿には貴国間を何度も行き来をさせるという無理をさせました。後で労って下さい」

 時間はまだ昼過ぎ。相当無理をして来てくれた事が判る。


 出迎えに来たヴァルムにモースはうまく話を合わせろと言われていたのだろう。モースもまた、なかなかの役者である。


「竜護星の宰相がいらしたと言うことはアトラス様もやはり?」

「アトラス様は来られないということか」

 呟いたのはスールとノルテ。


「我々のみで戦え、と女神の思し召しなのでしょう」

 ネウルスが残念そうに口を挟む。

 ぴくりとタウロの頬が動いたのには、気付かなかったことにする。


 モースは抱えていた包みを差し出した。ヴァルムに預けておいたものだ。


 封にはタビスの印。重みと長さから剣であることは想像に難くないだろう。

 その意味もモースは理解している。


「こちらをお渡しするよう、預かって来ました」

 モースに手渡された包みを開き、アトラスは皆に見えるように剣を掲げた。

「その心、確かに受け取った」

 五大公の面々から溜息が漏れる。


 受け取った剣を腰に差し、

『もういいか?』と、その意を込めてネウルスを見る。


「陛下はお疲れの様です。四半刻《三十分》程休息にしましょう」

 ネウルスに頷き、アトラスはモースを連れて廊下に出た。



「複雑なことになってらっしゃいますね」

 声を潜めてモースが言う。

「まったくです。来てくれて助かります」

 アトラスも声を抑えて応えた。


 剣はヴァルムが持ってくることになっていた。竜護星の者から『王』へ渡したほうが説得力があるとモースに託したのは彼の機転だろう。


「ヴァルムは?」

「先にエブルを連れて行ってもらいました」

「なるほど。エブルを連れてきたのですか」


 ペルラの弟だが、姉とは違いエブルは竜に乗ることができる。

 往復半して疲れ果てたハイネの代役を担ったのだろう。


 余談だが、エブルは『アシェレスタ』でも気が弱い故に拒絶力が強く、却ってレオニスには対抗できた稀有な例である。

 幼い頃からペルラにガミガミ言われてきた反骨精神に所以するとはモースの言だ。


「医官としてエブルは助手にできる人材ですしね」

「頼みます。こんな役をいつまでも続ける訳には行かない」

「はい。レイナ様からも厳命を受けています。ちゃんと帰って来て頂かないと困りますから」


 アウルムの治療がされている部屋に着くと、エブルが薬や器具を広げ、神殿の医療班の者が覗き込んでいた。


「アトラス、お疲れ。なかなかの完成度じゃないか」

 ヴァルムが含み笑いで声をかけてきた。

「茶化すな。で、兄上の容態は?」

「まだ熱が下がらず……」

 城の医官が困り顔で報告してくる。


 アウルムの顔色は昨日よりは良くなっているように、素人目には見えた。


「失礼します」

 モースは脈を取り、額に手を当て、目や呼気などを確認する。その表情からは楽観していないことが見て取れた。


 どうなのかと、無駄なことは聞かない。時間は全てアウルムの為に使って欲しい。


 ならばと、アトラスもすべきことをするまでだ。


 城の医官、神殿の医療班に向かって口を開く。

「この方がたは竜護星王家直属の医官で、この国には無い知識等をお持ちだ。中には本来なら門外不出のものも含まれる。故に命ずる。この部屋で見聞きしたことは一切口にすることを、タビスの名において禁ず」

「女神に誓って」

 医官達は立礼では最上位の仕草で応じた。


 その重々しさに、エブルが驚いた顔をする。


 タビスの言葉は月星では王の言葉の上を行く誓約である。


 今回はこれで良い。


 後を頼むと、アトラスはヴァルムと共に会議室に向かった。

モース到着までの時系列を図にまとめたので参考になればと思います。 

左の丸っぽいのは月齢です。

挿絵(By みてみん)

月星と竜護星は距離はありますが時差がありません。(時差あるとめんどくさいので)月星からそのまま南下して南半球に竜護星はある設定です。

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