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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
七章 偽りの王
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■月星暦一五四三年十一月⑭〈出来映え〉

 寝るとは宣言したものの、本当に寝られるとは、アトラスは思っていなかった。


 髪にはペースト状の何かが塗りたくられては、時間をおかれ、洗われることを何度か繰り返された。

 それでも、合間合間に放っておかれている時間にうつらうつらとはしていたらしい。


「長さを整えるので、こちらの椅子に移っていただけますか」


 声をかけられて、寝ていたことを自覚した。

 こんな無防備な状況で本当寝るとは、数年前は考えられなかった。

 人間、案外図太くなるものである。


 現行アトラスの髪は彼にしては長めの状態にあった。

 専属の理髪師が地方に嫁いだ娘の初出産に駆けつけて留守のため散髪の予定が延期になっていた。

 旅の最中のように、レイナに適当に切って貰っても良かったのだが、仕事を奪うなと叱れてしまった。

 そういう理由でいつもより若干長めの頭は、たまたまだったがアウルムの髪型に寄せるには好都合だった。


「蜂蜜の匂いがする?」

「はい。最後に蜂蜜で湿布して、傷んだ毛の補修を試みましたから」

「……」


 無理に色を脱いて入れるなどと言うのだから、痛むのもやむ無しかと納得はする。

 外見にそれほど気を遣う方でも無いが、無頓着でも無い。鏡を見るのが怖い気がする。


「出来ました」

 アトラスは意を決して渡された手鏡を覗く。


 さすがにアウルム程の蜂蜜色にはなっていないが、金髪と言って良い位には仕上がっていた。

 ぱさつき具合が絶妙に病み上がりだからと言えそうな感じである。


 日頃似ているとは思っていたが、髪の色を寄せるとここまで似るものがと苦笑が漏れた。


「あの、如何でしょう?」

 苦笑を別の意味に受け取ったらしい神官が尋ねてくる。

「いや、頑張ったな。短時間で良くやったんじゃないか?」


 徹夜で作業した者達を労い椅子から立ち上がると、計った様にネウルスが入って来た。


「おはようございます、アトラス様。おや、これはこれは……」

 顎に手を当ててネウルスは頷いた。満足そうである。

「皆さま、お疲れ様でした」

 ネウルスは神官達を慰労すると、アトラスを別の部屋に促した。


 用意されていたアウルムの衣服に着替え、ネウルスと遅めの朝食を摂りながら予定を聞く。


「この後、アウルム様として会議に出て頂きます。五大公の皆さまには知らせておりません」

「さすがにあの御仁達には通用しないだろう。そもそも声で解るんじゃないか?」

 特に、教育係だったカームには即効で見破られる気がする。


「案外、人は先入観で判断するものですよ。多少の違和感も病み上がりだからと押し通せると思います」

 完成度を測るに丁度良いと言うネウルスは楽しそうにも見える。

「お二人の声も案外似てますよ。顎だか喉だかの形が似ていると声も似ると聞きますね」


 少し低めに丁寧に話すようにして下さいとネウルスは指示し、二人は会議室に向かった。


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