□月星暦一五四三年十一月⑬〈叱咤〉
□視点ハイネ
アトラスの要請でとんぼ返りしたハイネが竜護星に着いたのは未明だった。ウィルと来た前日に比べたら、かなりの速さで翔けてきたことになる。
事情を話したとたんにモースとレイナに叱られた。
乗っているだけとはいえ、一往復半した後の身体はけっこう疲労困憊なのだが、反論のしようがない。
「人命優先でしょう。何を学んできたのです?」
珍しくモースが声を荒げた。
「毒物の対応は時間との勝負。体力が尽きる前に毒素を中和、排出しなければならないと知っているでしょう!?」
ふだんあまり怒らない人が怒ると怖い。
「でも、竜血薬は秘匿義務が……」
「そんなもの、アトラスが一言口外厳禁と言えば、月星人は墓の下まで持って行くわよ」
レイナも分かりやすく怒っている。
「早急に準備します」
小走りに部屋を出ていく祖父を見送って、ハイネは手近な椅子に沈み込んだ。
「さすがに僕は動けない」
レイナが冷たい視線で見下ろしていた。
「ハイネ、アトラスが戻って来なかったら、一生許さない」
本気で言っているのが判る声音。
「あの朝の散歩の時に話そうと思っていたのに」
それなのに、邪魔が入って予定が狂ったと呟いている。
「アトラスにはタビスの一声を使ってでも絶対に戻って来てもらう。まだ結婚して半年なのに」
レイナの声は聞こえていたが、ハイネは瞼を開いていられない。
泥に吸われるようにに眠りに落ちていった。