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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
一章 国主誕生編
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■月星暦一五四一年七月⑬〈本性〉

 ライの情報は確かだった。


 最短順路(ルート)で、アトラスはたやすくレオニスの元へと辿り着いた。


「なかなか気が利かぬ奴よ、のぅ、アトラスよ」


 窓辺にたたずんだレオニスは、アトラスの到着を振り向きもせずに迎えた。


「自慢の剣さばきで城中の通路という通路が血に染まるのを、余は見たかったのだが……」


 相変わらず、癇に障る古臭い話し方をする。


「生憎、お前のような奴に親切に応じてやる教育は受けなかったからな」



 知りたいのは相手の正体。

 レオニスが見たままの存在ではない事は理解していた。


「俺はお前など知らない。何者だ?」

「自分から名乗るのが礼儀なのではなかったのか?」


 莫迦にした笑み。


 あげくにレオニスは、アトラス自身が本来の姿をさらしていない以上、名乗る義務はないと言い放った。


「……知っている奴にわざわざ言ってやるほど親切じゃないのさ」

「さよう。知らぬ訳がない。『天を支える男(アトラス)』の名は我らの意識内に轟いておる」


 あっさり認めたレオニスは、含み笑いを持ってアトラスを見た。



 その萌葱色の瞳が宿す光はまともな人間のものではないが、かといって狂っているのとも違う。

 漂うのは確かに狂気であるが、何か邪悪な意志の集合体に基づいているような印象を受けた。

 この世の負を全て宿したと言っても過言では無い。


 喜も、楽もなければ憐憫も存在しない。


「アトラスともあろう者が、あんな小娘を連れて何をしている?なぜいるべき場所にいない?」


 心底不思議だといった顔でレオニスはアトラスに問う。


「いるべき場所など、俺には無い」

「いや、お前は月星で自分の築いてきた屍の上に立って、悔恨の旋律に耳を傾けていなければならない。そして自らの残酷な負の面に酔いしれ、甘美な快楽に身を堕としているべきなのだ」


 そうであってこそ、戦場での犠牲者達の想いがより活性化するのだとレオニスは謡うように紡ぐ。

 レオニスと同じ狢に類するものに都合がよい方向へ。


「逃げたのか? あれだけの命を奪ってきたお前が今更?」


 蔑みに満ちた眼差しが向けられた。


「月星の英雄が聞いて呆れる。なぜ、功績に甘んじ、自身の行いを正当化して、誉れるままに称えられていないのか」


 聞いてやる必要は無い戯言だ。頭で解ってはいても、アトラスは耳を傾けてしまう。


「そもそも、なぜあの行為を罪と呼ぶのか?正義の旗の下、殺し合いも聖戦とするのがお前達人間の所行ではないか?」


 罪とすること事態がお前自身の思いこみではないのかと、レオニスの冷ややかな声が軽やかに乱舞する。


「逃げたな……」


 アトラスは答えない。答えられない。


「それで、敬愛する兄さえも捨ててきたのか?」


 わざと挑発するのは心理作戦。弱みを突いて取り込もうというのだろう。


 理解してはいても、レオニスの言葉は、アトラスの心を容赦なく貫いていた。


「お前の兄は悲しんでおるかものぅ? 裏切られたと思っていても致し方ない。お前は、その片腕となるべき立場を放棄したのだから……」


「黙れ!」


 渾身の意志でアトラスはレオニスの言葉を振り払う。


「何者だ、お前は?何故、私を知っている?」


 何度も繰り返され、はぐらかされた問い。だがせずにはいられない。


「……同類の意識は、どんなに離れていても入ってくる」


 戦場という負の念が染みついた地にある、レオニスと同じ波動を持つもの。

 同一感情の集合体。突如、相手の正体を示す単語が思い立った。


ーー魔物。全ての秩序を乱す『破壊者』。


 通りで古臭い言い回しをいちいちするわけだとアトラスは嘲笑わらう。


 ご託はもうたくさん。

 相手の正体が分かれば十分。


 あとはレオニスを倒して連れの少女を解放すればいいだけ。


 アトラスは剣を構え直した。

 レオニスを斬ってもそれは殺人にはならないのは気が楽だ。


「俺の腕は知っているのだろう?」


 それでいいのか?

 さすがにアトラスは問う。


 使い込まれた剣を片手に身軽な装いのアトラスに対して、レオニスの方は光沢を持つ浅葱色の外套をひきずり、その下の衣服も布を多分に使ったもので見るからに動きにくいだろう。

 武器も、お飾り程度の宝剣を腰に差しているくらいで、アトラスの優勢は必然に見えた。


「お前の相手は余ではない」


 月星一の剣士を相手にするほど愚かではないと、レオニスは高らかに笑った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお❗️ ギリシャ神話由来のアトラスでしたか‼️ 神話そのままなのかモチーフによるものなのか、私は全然読み取れていませんが、知っている知識が出てきて(勝手に)興奮してしまいました。 続きも…
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