■月星暦一五四三年十一月⑪〈見舞い〉
ネウルスに案内されて、アトラスはアウルムの治療がなされている部屋を訪ねた。
「アウルム、災難でしたね」
大丈夫かとは聞かない。大丈夫だと答えるに決まっているからだ。
こういうところはこの兄弟そっくりである。
「アトラスか。新婚早々すまんな」
「そうですよ、デートの最中だったのに、いきなり呼び出されるのですから」
敢えて軽く応える。
アウルムは微笑った様だった。
「ネウルスに聞いていると思いますが、お姿とお名前をお借りします」
「存分に使え。きっちり借りを返して来なさい」
小さく掠れたアウルムの声。
だが、しっかりとそこには怒りがあった。
「兄上の代役なんて、今だけですからね」
「おや、残念。お前にならいつだってくれてやっても構わない椅子なのだがな」
「御冗談。いざとなったら、タビスの一声を用いても戻ります」
「奥方に恨まれても適わないから、頑張ってみようかね」
軽口で答えるが、アウルムの顔色は悪い。
部屋には城の医官に加え、神殿の医療班も既に来ており、案を出し合っている。
ハイネの意見も取り入れられ、擦り下ろしたトマト等も用意されていた。
「こちらはお任せを。兄上は治すことに専念してください」
良い添えて、アトラスは退出した。いくら心配でもここで出来ることはない。ならば、すべきことをするだけである。




