□月星暦一五四三年十一月⑤〈忠臣の苦悩〉
□モース
「モース、アトラスが戻るまでこの部屋には誰か医官を付けて偽装しなきゃならないわけね」
アトラス達が発った部屋で、状況説明もしなきゃだしと、レイナはぶつぶつ言っている。
努めて明るく振る舞うことで、動揺を誤魔化そうとしているのが伺えた。
「そうだ、サンクにも説明しなきゃだわ」
アトラスが竜護星に『居る』以上、護衛兼従者のサンクはここに居ねばならない。
襲撃者の検分から戻らない内にアトラス達には出立された為、事後説明になってしまった。
部屋を出ようとするレイナをモースが引き止める。
「まさかとは思いますが、陛下も剣を振るわれたのですか?」
「そうだけど?」
案の定、打てば響く水ように利きたくなかった答えが返ってくる。
「まぁ、あんまり役には立てなかったけど」
それが何か?と、視線だけで問われて、モースは頭を抱えたくなった。
「御身は御自分だけのものでないことを、いい加減自覚してください。何かあったらどうなさるおつもりですか!!」
レイナはきょとんとしてモースの顔を見つめた。
レイナとて、王という立場の人間が、自分の体すら自分の自由にならないことは、さすがに身に沁みてはいる。今更だろうという視線がモースに向けられた。
しっかり話が食い違っている。
モースは説明しようとして止めた。
こんなに慌ただしい時に言うものでも無いと自分に言い聞かせた。
「アトラス様がおられない内は外出禁止です」
「そんなぁ」
レイナが傷ついたような顔をしたが、故意に無視した。
「外れとはいえ城下で殺生沙汰が起こったのです。『月星一の剣士』でも『怪我』をすることがあるのです。いい機会ですから、せめて護衛を付けることをご了承いただきます」
恐いくらい真剣なまなざしで、城一番の古株の断言に、若い女王は肯くよりなかった