■月星暦一五四三年五月④〈祝賀行進〉
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翌朝は早くに起こされた。朝食もそこそこに、アトラスもレイナもそれぞれ浴室に放り込まれた。
ずっとお預けを食らっていたペルラの意気込みが凄さまじい。特にレイナは念入りに磨かれ、婚礼衣装に着替えさせられた。
アトラスの方は月星での扱いに比べれば、潔斎が無い分だいぶ簡易な印象だった。香油の落とされた風呂に入って、着替えて髪を撫でつけられただけだ。
婚礼は神事では無く契約という考え方の差であろう。相手が国主ということもあるが、新郎は新婦の添え物感がある。
先に用意が出来たアトラスはライから段取りを聞き、軽食をつまみながら待っていた。
傍らにはサンクが控えている。
ライとサンクは船旅中から顔を合わせていたが、割と馬が合うようだ。
これから一緒に仕事をすることになる同士、その方がアトラスもありがたい。
やがて、少しやつれた顔でレイナが現れた。
衣装は月星での婚礼で使用したのと同じものだが、髪の艶が増し、複雑に編み込まれている。
化粧にもこだわりが見られた。
大きな腹を抱えながら、満足気なペルラが後ろについていた。
ハールとストラも疲れた顔をしている。
「綺麗だな」
ここは言っておかないと、レイナではなくペルラに怒られそうな雰囲気だった。
思っていてもいつもならあまり口にしない言葉を敢えてかける。
「ありがと」
「当然です!」
食い気味にペルラが断言する。
ライが苦笑していた。
※※※
ファタルの街はファルタンによって厳重に警備がされていた。
ファルタンの息のかかった商人、海夫が総動員されている。今日ばかりは荷船も沖で待機させられている。
アトラスとレイナは、月星からわざわざ運んできた屋根を取り払った馬車に乗り込んだ。
馬車の左右には、ライとサンクが騎馬で護衛に付いている。
祝いというよりは、単純にお祭りを楽しむという空気。月星と竜護星の旗の色の垂れ布が華やかに目を引く。
アンバルとは違う熱気と歓声の中、ファタルの街を一周して馬車は街道に出た。
さすがに街道では屋根付きの馬車に乗り換えるが、沿道にも二色の布を振る人の姿が伺えた。
「貼り付けた笑顔で顔が攣りそうだ」
「むしろ、これからが本番よ。頑張って」
「違いない」
レイナの言葉に、アトラスは気を引き締めた。
【小噺】
ショートカットの髪型がトレードマークのレイナですが、大祭招待状を貰ってから約10ヶ月髪を切らせて貰えず、この時は肩くらいまであります。ペルラとハールが徹底して阻止しました。