□月星暦一五四三年四月③〈サンクの心労〉
□視点サンク
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アトラスとレイナはきっちり寄港先の陸が見えてくる直前位に帰って来て、月星を出た時の旅装にあらためると、何食わぬ顔で港に寄る。
宿泊地の主の労いに
「慣れない船旅は疲れますね」と、余所行の笑顔で応じている主人を見て、サンクはアトラスがいかに素の顔を見せてくれていたのかを理解した。
アリアンナが散々揶揄する余所行きの微笑は、知った上で見ると薄ら寒い。
船に戻るや、次の行き先の相談を始めるアトラスとレイナ。
「ピラウみたいな米に魚介を乗せて釜で焼いた料理、食べに行く余裕あるかしら?」
「行けるだろう。あそこはオイルとにんにくで具材を煮込む料理も美味いよな」
その料理は月星の西の方にある国の食べ方だった筈だ。
通称『タビスの台所』と呼ばれている、近頃月星で大人気の小冊子に書いてあった。
アトラスが旅の途中で見つけた料理を一枚一品目印刷し、一枚一ディアナ(※)という安価で、食材屋や薬屋、惣菜屋や食堂等、各所で売られている。
集めると紐で束ねて冊子にできるものだ。
図付きで作り方から、味や由来の説明、使われる食材や香辛料の効能紹介、月星でも食べられる食材での代用がアレンジが記載されてあったりする。
そばで聞きながら、なるほどの無茶ぶりだとサンクは納得した。
船はどんどん南に進む。だのに、月星と同程度の緯度迄北上して戻って来ようと言うのだから頭が痛くなる。
「魚介といえば聞いたよ。ハイネとイディ……サラと港町のあのお店行ったんだって?」
「そっちも行けば良いじゃないか。この季節なら鯛とか脂が乗ってて美味いだろう」
「鯛といえば、どっかの街で食べた、出汁鍋にさっとくぐらせて食べるの、美味しいよね」
「あれはもっと東にの街だったな」
取り敢えず、竜護星に付くまでは護衛の意味がないことをサンクは悟った。
結局、アトラスとレイナは竜護星迄の旅程の殆どを使って遊び尽くした。食い道楽に徹したという方が正しいか。
菓子や酒等を土産に買ってきては、女官や船員に配るその心遣いが却って性質が悪い。
ライは慣れろと言ったが、その前に心臓がどうにかなりそうである。
サンクにとっては、大祭前夜の『訓練』の方が、よっぽど気が楽だった。
小噺
1セレナ=100ディアナ(=10アール(竜護星通貨))
1ディアナ=10円位のイメージですね。
4章でアウルムとの会話の延長。
「食卓を豊かに!」と、新しい食材とメニューの普及目的の為、採算度外視。駄菓子位の価格設定です。
ピラウはピラフの原型になった料理。誤字ではありません。




