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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
一章 国主誕生編
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■月星暦一五四一年七月⑪〈脱出〉

 アトラスが捕らえられたのはわざとだった。


 レオニスへの反抗も、やり口が気にくわなかったのもあるが、少女への注意を妨げたかったのもあった。


 レオニスは、アトラスとの会話中にも何げに少女を意識しており、彼の真の興味は少女にあったと思えてならない。


 また、アトラス自身ももう一度レオニスと話がしたかった。

 その必要があった。


 少女にも話していない過去を、レオニスは知っているそぶりを見せた。


 だが、どう考えても納得がいかない。アトラスはレオニスを知らない。


 初めて見た顔なのだ。


 そもそも、病弱で城を出たことの無かったという人物がどうしてアトラスを知っていよう。



 アトラスは、ハイネを従えて部屋を抜け出した。


 連なる空っぽの牢に、ハイネは驚きを隠せない。

 アトラスをハイネの部屋に入れたのは、明らかにモースが意図してしたことだと受け取れる。


 上へ行く階段に出るには看守室の前を通らねばならない。


 ハイネの話によると、看守室の反対側にも牢は続き、そちらの方が規模が大きい。

 多少差はあるが二人がいたような特別室も複数あるという。


 看守は二人居るだけである。

 彼らは日に二回、正午及び真夜中に交代する。

 見廻りはその前後と朝と夕。

 夕刻の見廻り後の今なら動きは無いはずだとハイネは言う。


 押し殺した声も、忍ばせた足音も石造りの廊下には響いて聞こえている気がしてくる。


 不意に、アトラスは警戒の色を示した。


 格子戸の開かれる音。

 誰かが来る気配。


 アトラスはハイネを背後に下がらせた。いつでも動ける状態を整える。


 得意なのは剣術だが、体術も幼少期に叩き込まれている。

 二、三人ならどうにかなると割り切った姿勢。


「遅かったですね。迎えに行こうと思ったところですよ」


 現れたのは一人だった。


 エブルの率いた兵の中にいた者であり、モースと共にアトラスを牢へ連れてきた黒髪の兵士だった。


 兵士は敵意のないと、両手を肩の辺りでひらひら振ってみせる。



 看守室前の格子戸の脇には見張りの二人が伸びていた。


「殺しちゃいませんよ。こいつら、ほとんど自我ないから動きが単純でね」

「どういうつもりだ?」


 アトラスはまだ警戒を崩していなかった。


 怖い顔をするなと男は笑い、青紫色の柄に収まった長めの剣を取り出し、所有者アトラスに返した。


「城内でも不満を持っている者はいますよ。そして俺はこの機を逃したくはない」


 二十五、六歳というところか。

 割と細身だが背は高い。


 ハイネに視線で問うと、知らないと首を振る。

 閉じこめられていた五年間に召集されたのだろう。


「俺のプレゼント、気付いてくれたのでしょう?」

「鍵を忍ばせたのはお前か……」


 苦い顔を覗かせたアトラス。


「ただでさえ、まずいスープに彩りを添えてくれて、よ」

「おいしくなったでしょう」


 男は黒髪をかきあげ、茶色の瞳をほころばせている。

 ふざけているような顔。


 ハイネはすぐさま信用する気にはならないと、アトラスに首を振る。


「で、どうしてくれるのさ?」


 慎重にアトラスは尋ねた。

 返答次第で決めるという態度を崩さない。


 気付いてか、男はにっこりと微笑んだ。


「俺はライ。協力してあげますよ」

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