□月星暦一五四三年四月②〈宴〉
街を一周して、主役の二人が戻ってきた。
「隊長、似合っていますよ」
弓月隊副隊長のタウロ・アウダースが笑いかける。アトラスの縁の深い者が優先して招待された宴の為、いつもは家柄を気にして遠慮がちなタウロも参加している。
「恥ずかしくて死にそう……」
「それ、奥方の前で言わない方が良いですよ」
妻帯者の先輩として、やけに説得力のある口調でタウロは囁く。
「馴れ初めを聞いても良いですか?」
「やはり、旅の頃から相思相愛だったんですかぁ?」
月の大祭での宴の席で、アトラスらしかねる大告白の末の婚姻となれば、他の隊員達も気になっていたのだろう。
無礼講とばかりに質問攻めにしている。
「……言っておくが、故国に送り届ける迄は、そういう意味では指一本触れてないからな」
「マジかよ……」
心底呆れた調子でぼやくタウロ。
タウロは部下だったが、教師でもあった。カームや神殿の者が担えられない部分はタウロが担当したと言って良い。
「それは隊長、見上げた心がけですが男としてどうなんです?」
「……言うな」
外方を向くアトラスだが、耳が赤くなっているのは隠せない。
本当に表情豊かになったと、弟を見ながらアウルムは感慨に耽っていた。
願わくば、月星の玉座に座る姿を臣下として見たかったがそれは叶わない。
アトラスが選んだ女性自身が王として国を担う者だ。アウルムにはかの国に王配として赴く弟を見守ることしか出来ない。
アウルムは義妹となった花嫁のところに歩み寄った。
「おめでとう」
声を掛けると、一本筋の通った勁い海色の瞳が振り返り、微笑んだ。
その姿は大輪の薔薇の様に華美ではないが、雪の中に凛と咲く、可憐ながらに力強い花の様に気高く美しい。
「弟を宜しく頼む」
「お任せください」
この女性はたおやかな強さで、アトラスが孕む雪の如き脆さにも寄り添ってくれる……アウルムはそんな確信を覚えていた。
第六章 金色の回想 完
【小噺】
二章でアトラスの誕生日は五月と言っているのは、牡牛座であることを意味していました。 牡牛座の誕生石はエメラルドや翡翠。大雑把に言うと、緑の石。
彼がジェイドの血筋ということを示唆していました。
また、牡牛座の守護星は金星。つまり金の意味をもつ兄アウルムはアトラスを護る。裏切りません。因みに副官のタウロの意味もまんま牡牛です。
王家の姓ボレアデスはプレアデスのもじりです。