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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
六章 金色の回想
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□月星暦一五四三年一月〈傷痕〉

 内戦時、ジェイド派の本拠地だったジェダイトの復興事業はオストがえらく乗り気で、彼とノルテの主体で進められた。


 街の補修が終わると、城の跡地に立派な温泉保養施設が作られ、貴族の館は宿泊施設に改築された。


 オストの意気込みは、身体の弱い妻の保養の為という私情は透けて見えたが、保養施設は住民の雇用にも役立つ結果になったので良しとしよう。


 街の名前は、内戦以前使われていたテルメに戻した。


 ジェダイトとはジェイドに因んでレジーナが改名したものである。残しておいて良いことは無い。


 因みに、アンバルも以前の名に戻そうとしたが、こちらは首都ということもあってうまくいかなかった。


 内戦終結から七年目を迎えようとしている現在、テルメは流通の中継点としての機能も復活し、かつて分かたれた東西の交流場所としての成功例となっている。


 毎年二月、終戦記念日にアウルムは自らテルメの街に赴き、慰霊碑に花を捧げ、祈ることを続けている。


「今年は、お前も行かないか?」


 夕食後、すっかり習慣になった兄弟二人で嗜む食後酒の席で、アウルムはアトラスを誘ってみた。


 この時期にアトラスが月星にいるのは終戦の年以来だ。そして、今後もなかなかないだろう。

 それだけの理由だった。


 アウルムの提案に、アトラスの口からひゅっ、と、息を吸い込む音がした。


「ご命令とあらば……」

 答える声が硬い。


「私は、お前に命令はしないよ」


 根っこの部分で、未だ癒えていない傷痕。

 だがそれは、異様な状況下での幼年期、少年期を過ごして来たにしては健全な魂だとも言える。

 アウルムはアトラスの肩を抱き寄せた。


「悪かった」

 背中を叩くと、強張った身体が綻ぶのが判った。


「すみません、アウルム。私は、まだ、あそこに行くのは……怖い……」

「アトラス、今はそれで良い。だがいつか、精神(こころ)身体(からだ)が拒まないのならば、訪れてみなさい」


 かつてジェライトと呼ばれた街に遺るものは、もう、アトラスにとって悪い物ばかりではない。

小噺

テルメ:温泉。テルマエとも!

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