◯月星暦一五三八年〜一五四二年七月〈アウルムの手記より①〉
【月星暦一五三八年】
アトラスが出奔して約二年。
海風星にアトラスが現れた。連れの娘が発熱し、ヴァルムに接触したことで、アトラスの現状を事細かに知ることが出来た。
連れがいることは、神殿からの報告で知っていたが、彼らも実際にアトラスと話をして聞いている訳ではない。
旅の目的が記憶喪失の娘の故郷探しというのは非常に有益な情報だった。行動の型が予測しやすくなる。
ヴァルムは立ち去るアトラス達を引きとめられなかったと謝罪とともに報告しにきたわけだが、もちろん咎めるべくも無い。
ヴァルムは立場上、割と自由に動ける身の上である。いくつか情報を共有し、いざとなればアトラスに協力できる人材として確保した。
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【月星暦一五四一年七月】
以前から当たりをつけ、王では無く個人的に協力を頼んだいくつかの中の一つから連絡が入った。
竜護星にて、暴虐を尽くしていたという王を行方不明だった末娘が斃したという。
アトラスが連れていた娘が、タビスについて予言を残したセルヴァの娘だったとは、何の因果かと思った。
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【月星暦一五四ニ年七月①】
竜護星の王女の連れが月星人だったこと、それがアトラスであることは黙っていたが噂は広まる。
ネウルスが聞き留め、動きだしたが、先に辿り着いたのはアリアンナだった。
我が妹ながら、その解析力と判断力と行動力には頭が下がる。だが、アリアンナは城側の情報しか知らない。
協力者がアリアンナを足止めしてヴァルムに連絡を入れてくれたのは良かった。
あの者達とは今後も仲良くやっていけるだろう。
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【月星暦一五四ニ年七月②】
ヴァルムはうまく誘導してくれたようだ。
アトラスが気にかけた娘にも会ってみたいと思っていたから、選択肢のひとつとして大祭の招待状を預けておいたが、役に立ったらしい。女王は承諾してくれた。アトラスを送り届けると名言してくれた。
魔物という不穏な単語も出てきたが、アトラスが帰ってくるという報せは単純に嬉しい。
彼が帰国しても良いと考えられるようになってくれたのが喜ばしい。
お兄ちゃんの弟愛、暴走中!?